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2008.08.07

「闇の太守」 闇の向こうの宿星

 この世の影に存在するというもう一つの国「根の国」を束ねるという「闇の太守」。その闇の太守と呼ばれる青年・贄塔九郎は、己の宿星を求めて旅に出る。何かに導かれるように流離う塔九郎の前に、彼の首を狙う兵法者、そして八岐大蛇の首から生まれた物怪たちが立ちふさがる。

 山田正紀先生の作品の中でも、時代小説は常に一定のウェイトを占めていますが、その中でも私が最も好きな作品が、この「闇の太守」(の第一巻)です。
 「剣と魔法の物語」を日本の戦国時代で描くことを目指したという本作、その着眼点のユニークさは言うまでもないことながら――しかも、まだまだ「剣と魔法の物語」が我が国ではマイナーだった頃に、というのが素晴らしい――しかし、さすがは山田正紀、と唸らされるのは、やはり「闇の太守」の存在の独自性でしょう。

 根の国と言えば、日本神話に登場する地中異界、黄泉の国。現世あるいは天上界に対置されるもう一つの世界であります。
 その国を束ねる者ということは、いわばこの世の裏面を支配する者ということ。そして神話の中でこの根の国に赴き、住まう存在が須佐之男命であったことを思えば、闇の太守たる塔九郎が、八岐大蛇の眷属と対峙するというのが、また何とも象徴的であります。

 さて本書は、「出雲人外宮」「飛騨桃源郷」「氷見痩面堂」「甲州陽炎城」の四編で構成される連作短編集のスタイル。その各話において、塔九郎は八岐大蛇の首から生まれた物怪一匹ずつと対決することとなります。
 …ということは、本書で塔九郎の前に現れる八岐大蛇の首は四つ。当然首は全部で八つですから――つまり、本作は半分の時点で途絶しているということになります。

 実はこの「闇の太守」は最終的には四巻まで刊行されて完結しているのですが、しかし、二巻以降については、闇の太守たる塔九郎は登場しているものの、設定は共有されず、ほとんど全く別の物語として展開されています。
 こちらの物語も、もちろんそれなりに面白く、いずれは紹介する機会もあるかと思いますが、しかし闇の太守という存在のミステリアスさ、そしてその存在を中心にした独自の世界観の魅力は、この第一巻のみに存在するもの。冒頭で私が大好きなのが「闇の太守」(の第一巻)と書いた所以です。

 もっとも、「闇の太守」の全貌が明かされずに終わってしまったことは、もちろん実に残念ではあるのですが、しかし、描かれた四つの物語はどれもそれぞれに魅力的な作品であり、見逃すには惜しいものばかり(個人的には第四話「甲州陽炎城」で提示された山本勘助の「正体」の見事な解釈は、いまだに強く印象に残っています)。
 果たして塔九郎が知るはずだった宿星の正体が如何なるものであったのか…それはおそらくこの先も永遠に闇の向こうかと思いますが、四編を元に想像してみるのもまた一興かもしれません。


「闇の太守」(山田正紀 講談社文庫) Amazon

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