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2008.09.11

「機巧奇傳ヒヲウ戦記」第1巻 至誠が動かしたもの

 嘉永六年、黒船見物に訪れた二人の若者「りゅう」と「とら」は、機の民の男・マスラヲらと共に活動する火車党の存在を知る。日本で蒸気機関車を走らせるという火車党の目的に興味を持ったりゅうは、とら、そしてジョン万次郎と共に行動を開始するが、その前に機巧を武器に利用しようとする者たちが立ち塞がる。

 つい先日、講談社の「マガジンZ」誌の休刊が発表されました。様々な伝奇漫画が掲載された同誌ですが、その最初期に連載されたのがこの漫画版「機巧奇傳ヒヲウ戦記」であります。 全四巻のうち、今回第一巻のみを取り上げるのも妙に思えるかもしれませんが、この第一巻は、本編のビフォアストーリー。
 主人公・ヒヲウが生まれる前、その父マスラヲ(「天保異聞 妖奇士」にも顔を出したあの人物)と、後にヒヲウたちを導くことになる「りゅう」=坂本龍馬が繰り広げた冒険を描いたもので、これだけで独立した物語として成立しているのですが、これがまた実に私の好みエピソードなのです。

 黒船来航という激動の時代を背景に、来るべき新時代の象徴たる蒸気機関、さらにそのまた象徴たる蒸気機関車を中心に据えたこのエピソード――原作は會川昇氏だけあって、多彩かつ個性豊かな登場人物(これは歴史上の有名人の特徴を捉えてビジュアライズしてみせた神宮寺氏の功績大)や、彼らと歴史的事件との絡め方も巧みで、それだけでも既に十分楽しいのですが、しかし何よりも見事なのは、そこに交錯する様々な人々の想いを巧みに織り上げてドラマを展開している点であります。

 機関車を走らせる、その目的のために集まった者たちであっても、その理由は様々。
 それはその一人一人が背負った人生がそれぞれ異なるように――いや異なるがゆえに、様々であるのですが、しかしその様々な想いが交錯した末(特に、ヒロインが蒸気機関車を走らせようとする理由にモリソン号事件を絡め、そしてそれが頑なだった「とら」の心を動かすくだりなど実に良い)に、蒸気機関車の疾走というクライマックスに達するのが実に感動的なのです。

 そして何よりも、このドラマの背景に、純粋なテクロノジーへの想いこそが――テクロノジーを政治(軍事その他現世的に役に立つもの)に利用しようという人々との対峙はあったとしても――人々を動かし、歴史を変えていく、というテーゼがあるのが実に嬉しい。
 もちろんここでいうテクノロジーは、別の言葉にも置き換えられるものであり――そしてその言い換えの一つが、「至誠にして動かざるものは未だこれ有らざるなり」という、本作のテーマとも言うべき言葉に昇華していくこととなります。
 その意味からも、このエピソードが、第一巻で描かれているのは実に意義があると言えます。
(ちなみにこのテーゼ、同じ會川氏がシリーズ構成を務めた「大江戸ロケット」にも通底するものであり、極めて興味深いものがあります)

 「機巧奇傳ヒヲウ戦記」については、TV版・漫画版とも、きちんと取り上げようと思いますが、今日はその第一弾としてふさわしい、この漫画版第一巻を取り上げた次第です。


「機巧奇傳ヒヲウ戦記」第1巻(神宮寺一&会川昇&BONES 講談社マガジンZKC) Amazon
機巧(からくり)奇伝ヒヲウ戦記 (1)

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