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2008.09.09

「カミヨミ」第3-5巻 天狗が招く異界の果てに

 所属もバラバラの五人の軍人が同日同刻に姿を消し、その一人の死体が、高い木の上で発見された。さらに軍の高官が次々と暗殺され、「天狗」を名乗る存在が、一連の事件の犯行声明を行う。事件の調査に当たる天馬たちは、その背後に、かつて軍を震撼させた「義経計画」なるものの存在を知るが、敵の魔手は彼らにも伸びていた…

 明治伝奇アクションホラーミステリ「カミヨミ」の第二章、第三巻から第五巻に収録されているエピソードが「天狗の神隠し編」であります。
 天狗による神隠し伝説を背景に、奇怪な「天狗」の群れが明治の帝都に跳梁する中、事件は空間的にも時間的にも次から次へと意外な広がりを見せ、遂には天馬・帝月・瑠璃男の主人公トリオ自身の運命にも密接に絡んで――
 と、本エピソードは単行本三冊の分量も納得の実に充実した内容。これぞ伏線が巧みに張り巡らされ、複雑に物語が展開していく一方で、時にコミカルに時に哀切にと物語の緩急自在ぶりも楽しく、まことに私好みの内容に、何故もっと早く読んでいなかったかと臍を噬みました。

 しかし私が何よりも好ましく思うのは――これは先の感想でも似たようなことを書きましたが――どれほどありうべからざる事件が、超自然的な現象が描かれようとも、その根底には、あくまでも生きている人間の姿があることです。
 奇怪な事件を引き起こす――たとえきっかけになることはあったとしても――のは、異界からのモノなどではなく、人間の欲望や妄執というのは、悲しいことではあります。しかしそれは、だからこそ事件を解決するのも、異界の力ではなく、人間の力でなければならないのであり…その姿勢はそのまま、異界の力を宿しながらも、あくまでも人間として戦おうとする天馬の姿にそのまま重なっていきます。

 そして、人間という存在が大きな意味を持つのは、主人公の側のみではありません。
 人外の力を得て超人と化したはずの男の中に残っていた人間性…それが、綿密に計画されていたはずの陰謀の崩壊の引き金となるという終幕は、皮肉であると同時にどこまでも切なく、「天狗」の招きにより異界に囚われてしまった者の最後として、胸を締め付けられるような哀しさがありました。

 単に奇怪な物語を描くばかりでなく、現実には存在しないものと対比させることにより、現実というものをより鮮烈に描き出すのが伝奇であるならば、異界と人間を対比させ、人間存在の中の美醜を浮き彫りにした本作は、まさにその伝奇であると、強く感じる次第です。


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