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2008.09.18

「大英雄」 金庸ファン必見の快作…?

 西毒の謀反で国を追われた金輪国の第三王女は、伝説の九陰真経を求め、東邪と共に旅に出る。嫉妬から二人を追う妹弟子をさらに追う北丐は、途中で西毒と出会い、強引に旅の道連れにする。一方、仙人になるために運命の恋人を探す南帝も、旅に出た先で東邪たちと出会う。伝説の達人たちの、若き日の大騒動の行方は…

 本当に申し訳ないのですが(って、誰に謝っているのかわかりませんが)私の金庸ファーストコンタクトはこの作品なのです。ウォン・カーウァイの「楽園の瑕」の製作が遅れに遅れたため、「仕方ないからこのキャストでもう一本撮るか!」ということで製作されたという伝説めいたエピソードを持つ本作ですが、内容を一言で表せば…素晴らしいバカ映画以外の何ものでもありません。

 「楽園の瑕」がそうであったように、本作は金庸先生の名作「射雕英雄伝」のビフォアストーリー。東邪・西毒・南帝・北丐に中神通と老頑童といった、本編では既に伝説の達人たちとして知られていたキャラクターたちの若き日を描いた、最近の言葉で言えばエピソード0と言えないこともないのですが、むしろ本編の題材を使って好き勝手作ったパロディというべき作品ですが――
 基本的に登場人物は全てバカか変態! 展開するギャグはベタでコッテコテ! と、たぶん真面目な人が多いであろう金庸ファンが見れば卒倒しそうな内容(特にホモカップルにされた王重陽と周伯通…そりゃー王重陽も林朝英から逃げるわけだわ)なのですが…しかしこれが実に楽しいんですね、本当に。

 その最大の理由は、今見てもため息の出るほどの錚々たるキャストが、本気で楽しそうにバカ演技をやらかしていることでしょう。香港映画の明星たちのサービス精神は、もともと実に旺盛なのですが、それにしても揃いも揃って何かタガが外れたかのような爆発っぷり。背景事情は色々あるのでしょうが、素晴らしいプロ意識には本当に頭が下がります。

 …まあ、予備知識なしに独立した武侠コメディーとしてみても、それなりに――どころかかなり面白く(特に自殺願望がある北丐を殺そうとして逆にひどい目に遭いまくる西毒のシーンは何度見ても笑えます)、冷静に考えれば別に「射雕英雄伝」でなくてもいいような気もするのですが、やはり「あのキャラクターがこんなことを!」的な部分は当然あり、原作を知らなくてももちろん、原作を知っていればより以上に楽しめる作品であることは間違いありません。

 私がこの作品を初めて見たのはだいぶ前、まさか金庸作品が日本で全訳されようとは想像もできなかった頃のことで、その当時のことを考えると隔世の感がありますが、しかし作品そのものは、今見てもやはり最高に面白く安心しました。
 もっとも、もう二度とこのメンバーが集まることはないかと思うと切ない気持ちになりますが――


 作品の紹介をするつもりが爺いの繰り言になってしまいましたが、まあたまにはご勘弁を。なにはともあれ、金庸ファンであれば、一度は見ておくべき作品…かなあ?


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大英雄


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コメント

前置きは長くなりますが。
私は10歳の時に、床屋さんで『週刊少年ジャンプ』の諸星大二郎先生の『暗黒神話』(愛読書)を読んで、伝奇に開眼したのだと思います。それ以後、1ページ、1ページめくるのがものすごく楽しみというような書籍やマンガにはなかなかお目にかかれませんでした。
諸星先生の影響が強かったので(笑)、大学では民俗学か中国語を専攻しようと考えていました。東京の大学で受験したい中国語学科がなかったので、某大学の中国文学科にしたところ、ここしか受かりませんでした…。大学院も第一志望は某国立大学でしたが、滑り止めの学内選考(推薦入学ですね)で受かった大学院に入るしかなかったです。大学の卒業論文は、郭沫若の第一詩集『女神』について、修士論文は何其芳の散文集『画夢録』についてです。どちらも近代文学です。日本では郭沫若は知名度は高いと思います。何其芳は…、知名度低いと思います。
もしも古典文学専攻だとしたら、『西遊記』か『聊斎志異』などの志怪小説か『山海経』か陶淵明の詩だったと思います。正に、諸星ワールドですね。

むうつんは、1992年9月から1994年2月まで、上海の復旦大学に国費留学してました。そこで知り合った中国人の友人から、「中国にはこんなおもしろい小説があるんだよ」と、武侠小説の存在を知らされました。私がずっと読んできたのは中国の純文学やそれに関する論文ばかりでしたので、中国人はこんなおもしろいのを読んでるなんて、ずるいよぉ~と思ったものです(笑)。高校時代に、平凡社上下2冊の『西遊記』を読破したことはありますけども。最初に読んだ武侠小説はあまりにもおもしろくなく、すぐに友人にあげたしまったので、タイトルも内容すらも記憶にありません。「金庸や古龍がおもしろいよ」と教えられたので、次に手に取ったのが『鶴驚崑崙』でした。一気に読み、泣きました。後日知ったのですが、表紙には古龍と書いてあったのに、本当の作者は王度蘆でした。海賊版が多い時代でしたので…。今でも版権に関して、認識は低いみたいですね。王度蘆は映画『グリーン・デスティニー』(原題は『臥虎蔵龍』。邦訳なし?)の原作者です。
初めて読んだ金庸作品はたぶん『射雕英雄伝』だと思います。留学当時は、古龍作品は1日2冊、金庸作品は1日1冊のペースで寝食を忘れたみたいに耽読してました。必修だったので、漢文も勉強しましたから、いちおう訓読はできますが、古典文学の素養がないため、「あの技の由来は○○だ」というのは残念ながら分かりません。ページをめくるのがわくわくして楽しいなんて、私にとって『暗黒神話』以来のことです。

最初に観た金庸映画は林青霞主演の『東方不敗』でした。留学してた頃は、香港で武侠映画がとてもはやっていました。
『大英雄』も観ましたよ~。とてもバカバカしくて面白い作品でした。『楽園の瑕』は妹と観に行ったのですが、やっぱり王家衛って分からん!が私達の感想です。

金庸作品で好きなキャラは黄薬師、好きな作品は『笑傲江湖』です。古龍で好きなキャラは鉄中棠大侠(『鉄血大旗門』邦訳なし、できることなら私が翻訳したい)、好きな作品は楚留香シリーズでしょうか。
最近、チャンネルNECOで『雪山飛狐』の放映が始まりました。監督がわりと好きな王晶(バリー・ウォン)です。なにせ“若竹”ってどの小説に出てきたかな?というくらい、記憶力がないものですから、原作もちゃんと読んだくせにすっかり忘れています。ワイヤーアクションが大好きなので、楽しんで観ています。
2本の時代劇も観ますが、ワイヤーアクションがないので、寂しいなあと思っています。茨城の実家では、物心ついた頃から時代劇を観てました。大河ドラマの『風と雲と虹と』『草燃える』『花神』はおぼろげながら記憶してます。
と書いてしまうと、年齢がバレそうですね。
7月に42歳になったばかりの、丙午生まれです。

金庸著作集の改訂版が出ているみたいですね。私が持っているのは旧版(徳間書店の方がはるかに紙質良好)なので、お金があったら、香港日帰りで買ってくるんですけど…。観光は以前したことがあるので、書店とCDショップに行くだけでいいんです。でも、魯迅全集をどかさないと置く場所がありません。
徳間書店の金庸全集はハードカバーで途中まで揃えましたが、活字の組み方が読みにくかったため、読まずにヤフオクに出品してしまいました。図書館に入っていますから。
引っ越しのたびに、蔵書の見直しをしています。留学時代に買った本で不要なものは、母校に寄贈しました。
武侠小説でも読んで、手元に置く必要のないものは図書館寄贈です。マンガも内容によっては、寄贈を受け入れてもらえます。
好きな作家でも○○シリーズは買うけど、他のは図書館利用にしているのですが、小説もマンガもじわじわと増えています。オタクだから仕方がありませんけど。

長々と書いてしまい、すみません。

投稿: むうつん | 2008.09.18 09:02

すみません。
訂正です。

2本の時代劇→日本の時代劇。

東京の大学で受験したい中国語学科がなかった→東京の私立大学で受験したい中国語学科がなかった。

高2の成績がまあまあだったので、高3では国立文系コースにしました。東京外国語大学中国語学科が第一志望でした。難関大学です。担任の先生に三者面談で、「浪人しても絶対受からない!」と言われました。国立コースのくせに、数学と理科がダメダメになり、文系のくせに現代国語が苦手でした。「何十字以内で要約せよ」とかの設問を見ると、頭の中が真っ白になったものです。小論文なんて、論外…。これだったら、最初から私立文系コースにして、早稲田の二部を目指すのでした。父はなぜか早稲田が好きなんです。早稲田にも中国文学科があります。二部から一部への編入試験があるはずですし~。
母の従妹が青学のフランス文学科を卒業してから、東京外国語大学のフランス語学科に編入したのを、中学時代に知りましたので、浪人してもダメなら編入があるじゃんと思ってました。
大学時代は、週2回某中国語学校でダブルスクールをしてました。しかし、いろいろありまして、編入じゃなくて、大学院進学にしてしまいました。まあ、あの頃は、バブル期でしたから。

ちなみに、2歳年下の妹は第一志望が○○大学の史学科でした。私はここの文学科を受けて、落ちました。彼女は滑り止めに他大学の史学科に受かりましたが、滑り止めとして○○大学の法学部にも受かったので(父は喜んでました)、法学部に進学、ゼミは日本政治思想史と日本法制史。卒業してから同大の史学科に学士入学しました。御霊信仰で卒論を書きたかったらしいんですけど、教授に資料がないとか言われて、律令関係で書いたみたいです。卒論指導教授のことを、今でも、「★★のじじい」と言っています。

むうつんは、古代史も好きですが、中国近代文学を専攻していたこともあり、近現代史にも興味があるので、腐女子ではありますが、伴野朗などの小説も読みます。中でも、特務機関と秘密結社に興味があります。金庸作品でも、五毒教と日月神教は好きですね♪ 朱砂掌は一番好きな技です。
船戸与一の『満州国演義』も読んでます。妹に、「おもしろいよ、張作霖とか出てくるの~」と言いましたが、「興味なし!」と言われてしまいました。

私は、乗馬はできませんが、大陸浪人になりたかったです。女性には不向きなお仕事(?)だと思いますが。

数カ月前、明治大学でゾルゲ事件のシンポジウム開催と新聞に載っていたので、妹に一緒に行かないかといちおう誘ったところ、「おまえは、いやがらせをするのか」と言われてしまいました。妹は古代史大好きなので。
思い出しました! 妹は史学科時代、岩波新書『満洲事変』を読んでレポートを書かなくてはならなかったのですが、私が代わりに読み、妹が買った本ですので、要点をマーカーか赤線で引いてあげました。
妹は私立文系コースでしたが、英語が超苦手で、代わりに数学で受験したかったと言ってました。高校じゃなくて、茨城高専を受けようかなと言っていたくらいですから。理系にしなかったのは、物理で挫折したからだそうです。
妹の大学時代、英語と中国語と漢文は私が手伝ってました。
私の大学も妹の大学も、思い起こせば、高校時代の英語の方がレベルが高かったです。

ところで、荒山先生の存在は、『朝日新聞』の書評で知りました。最初に読んだのは『柳生百合剣』でした。“若竹”が出てくる作品(タイトル失念)も『朝日新聞』の書評で取り上げられてました。
夕刊の新刊案内で2行の内容紹介のうち、「忍猫のタマ」(むうつん姉妹は猫好き)に惹かれて、米村圭伍先生の作品も読むようになりました。妹も荒山先生と米村先生の小説を読んでいます。

投稿: むうつん | 2008.09.18 09:57

いや、まさしく人に歴史ありですね。
興味を持ったことをどこまでも貫くというのは、素晴らしいことだと思います。

金庸先生の改訂版で思い出しましたが、「楽園の瑕」も再編集版が出ているらしいですね。うーん、あの作品のどこをどういじったのか、非常に気になります。


…と、むうつんさんのコメントを拝見していて大変なことに気付きました。
私の金庸ファーストコンタクトは、「大英雄」ではなく、「東方不敗」ではないですか! うーん、あれはもう金庸作品の枠をすっ飛ばしていたので、頭からすっかり抜け落ちておりました(もちろん大好きな作品なのですが)。

投稿: 三田主水 | 2008.09.21 00:38

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