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2008.09.02

「日本猟奇史 江戸時代篇」 裏面から見た江戸時代史

 言葉の意味・用法が時代によって変化していくのは世の常とはいえ、「猟奇」という言葉の受け取られ方は、ずいぶん変わっているものだと感じます。
 今では(…と思ったら、初刊行時に既に誤解を受けていたようで苦笑)、グロテスクなもの・変態的という印象のある「猟奇」ですが、本来の意味は「奇」を「猟る」、すなわち「怪奇・異常なものをあさり求めること」。本書「日本猟奇史」も、もちろんこの本来の意味に基づくものです。

 この「江戸時代篇」は、タイトル通り江戸時代に記録された様々な怪奇事件・奇現象を当時の書物から収集し、年代順に記載したもの。いわば編年体の江戸怪奇事件簿といったところでしょうか。

 全二百話収録されたその内容は、駿府城の肉人や、うつろ舟の女のようにメジャーな(?)ものから、安房勝浦で地中の櫃から発見された巨大な頭蓋骨と剣など、なかなか類書では取り上げられないものまで、実に様々。
 実は私もこの手の怪奇事件というのは大好きで、折を見てネタを漁っては、このサイトの年表に掲載しているのですが、こういう人間にとっては、実に、実に楽しい書物であります。

 しかし何よりも注目すべきは、本書が年代順に編まれていることではないでしょうか。
 こうした方面の内容を集めた類書は、何冊も――それこそ毎年のように――出版されていますが、それらは大抵テーマ別に題材をまとめて掲載されています。
 それに対して、本書は冒頭から一貫して、その事件が発生した(記録された)時期に従って配列されています。

 正直なところ、単純に事件の内容を読者に読ませるだけであれば、同傾向のものを集めたテーマ別の方が良い部分もあります。しかし本書で敢えて編年体を採っているのは、単なる物語集とするのではなく、一種の歴史を記すものとして、裏面から見た江戸時代史として成立させることを目指した作者の気持ちの表れではないか…私はそう感じます。

 普通の(?)事件がそうであるように、その時代に起きた、語られた怪奇事件もまた――明示的ではないにせよ――その時代の世相を映し出すものと、私は考えています。
 「史実」の年表と、この「猟奇」の年表を重ね合わせたとき、また新たに見えてくるものがあるのではないか――内容の面白はもちろんのこと、そんな楽しみも感じられる書物です。


「日本猟奇史 江戸時代篇」(富岡直方 国書刊行会) 江戸時代篇1 Amazon/江戸時代篇2 Amazon
日本猟奇史 江戸時代篇 1 (1)日本猟奇史 江戸時代篇 2 (2)

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