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2008.10.16

「飛狐外伝 3 風に散る花」 快作の中の脆さ?

 全三巻の「飛狐外伝」の最終巻で描かれるのは、国中の武術の達人が一堂に会した一大武術大会を舞台に、胡斐の、袁紫衣の復讐の行方。さらに「書剣恩仇録」の主人公・陳家洛と紅花会までもゲスト出演し、ラストを飾ります。

 奇しき因縁から清朝高官・福康安と事を構え、お尋ね者となった胡斐。しかし極悪人・鳳天南を討ち果たすため、大胆にも変装して福康安主催の武術大会に潜入する胡斐ですが、その武術大会こそは、武林壊滅を目論む福康安の恐るべき計画で…
 と、ラストにふさわしい文字通りの大舞台で物語は展開、次から次へと登場する達人同士の激突に、胡斐と二人の少女の恋模様の行方、胡斐と紅花会の好漢たちとの交流と、実に盛りだくさんであります。ありますが…

 この最終巻に来て、一気に本作の構造的脆さが出てしまったという印象が、残念ながらあります。
 本作は、「外伝」というタイトルが示すように、「雪山飛狐」の外伝ストーリー。胡斐にとっての最大の目的である父・胡一刀の仇討ち、そして物語世界の根幹を成す謎である胡一刀の死の秘密は、外伝においては描かれ得ません。
 本作での胡斐の行動の目的は、鳳天南により非業の死に追いやられた一家の復讐であり、極端なことを言ってしまえばあくまでも他人事――それに命を賭けるということ自体は英雄として大いに讃えられるべきことではありますが――であります。

 つまり胡斐は、本作の主人公ではありますが、しかし同時に本作の物語の中心からは少しずれたところに位置しており…決して傍観者というわけではなく、主体的に活躍はするのですが、しかし彼よりももっと真実に近い場所にいる者、彼よりももっと復讐にふさわしい者がいるというのは、物語として座りが悪く――もっとも、その座りの悪さが青春のほろ苦さと結びついて、本作ならではの味わいとなっているのですが――その復讐を終えた後の展開が、「物語を終えるための物語」となっているのが何とも残念です。


 もちろん、先に述べたように本作ならではの魅力も多く(特に、本作での陳家洛は、「書剣恩仇録」でのネガティブイメージをかなり払拭した印象)、個々のパーツを見れば、本作が非常に楽しい作品であることは間違いありません。私も飽きることなく一気に読み通すことができました。
 特に苗人鳳夫妻のすれ違いから始まった物語が、一周してそのすれ違いをもって幕となるラストには唸らされた次第です。

 それでもなお、なかなか外伝というのは難しいものだな、という印象は残るのですが…


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飛狐外伝 3 (3) (徳間文庫 き 12-38 金庸武侠小説集)


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