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2008.10.01

「八犬伝の世界」展 八犬伝物語受容の姿を展示に見る

 「南総里見八犬伝」といえば、言うまでもなく日本の伝奇小説の源流の一つ。そしてその題名通り、千葉県をその主たる舞台とした郷土の物語であります。
 その八犬伝をテーマとした展示会「八犬伝の世界」が、千葉市立美術館で現在開催されていますが、私も先日行ってまいりました。

 展示されているのは、「南総里見八犬伝」の原典はもちろんとして、八犬伝を題材とした錦絵、現代における八犬伝関連作品等。これらのうち、大部分を占めているのは錦絵で、これだけで全体の八割九割を占めるのでは…というほどの点数が展示されており、壮観の一言でありました。

 八犬伝の錦絵は、大別すれば人物をクローズアップして書いたものと、物語中のある場面を書いたものに分かれます。
 前者は、当然のことながら八犬士を描いたものがその大半ではありますが、それ以外の――よほどのマニアでなければ忘れているようなキャラまで――登場人物までも収録した51枚の人物画シリーズ「八犬伝犬の草紙」には感心しました。
 また、場面の方については、作中の場面を、二枚組あるいは三枚組のダイナミックな構図で描いたものがほとんど。当然、人口に膾炙した名場面に人気が集中するわけで、道節火定、芳流閣の決闘、対牛楼の仇討ちといったところがその大半を占めておりました。

 これらの錦絵については、八犬伝という作品のキャラクター性というものが窺われて実に興味深いものがあったのですが、それ以上に考えさせられたのは、これらが八犬伝の普及に果たした役割の大きさ。
 八犬伝の、文体とその長大さは、決して全ての読者にとって読みやすいものではなかった――そしてそれは、現代の我々にとっても同様なのですが――と認識していますが、これらの錦絵が、読者の理解を高め、八犬伝の物語世界への没入を深める大きな助けになったであろうことは想像に難くありません。
 物語のビジュアライズというものは、いついかなる時代においても行われているものですが、そこに錦絵という生産性に優れたメディアが絡むことにより、八犬伝の人気と知名度が更に増したことは想像に難くありません。


 そしてまた、大いに考えさせられたのは、八犬伝と歌舞伎の親和性であります。
 展示されていた八犬伝の錦絵の中には、実際に舞台で演じられた歌舞伎版八犬伝を題材としたものも含まれておりましたが、それ以外の錦絵についても、特に登場人物のビジュアル化の点で、歌舞伎の影響が強く見てとれます。登場人物たちの顔が、当時の人気役者をモデルにしているという部分もありますが、それ以上に、髪型や服装といった点で、歌舞伎における役柄、キャラクター分類といったものに則って描かれているのが目を引くのです。

 もちろん、一つの物語の登場人物たちをビジュアライズする上で――特に八犬伝のような人物数の多い作品ではなおさら――歌舞伎における役柄のパターン化をベースとするのは、有効な手段であり、特に人物の色分けのはっきりした八犬伝では、実にしっくりくる手法であります。
 しかしそれだけではなく――ここからはいささか脱線気味となりますが――歌舞伎における「過去によく似た世界」「過去にあったかもしれない世界」を舞台にして現代(その舞台が上演されたリアルタイム)に通じる物語を演じるという「見立て」の技法は、実は八犬伝にも共通のものであり、そこに、今回の展示において見られた歌舞伎と八犬伝の親和性がそもそも由来しているのでは…などと考えてしまった次第です。


 と、そんなことも考えながらじっくりと見ていたら、全て見終えるのに三時間もかかってしまったこの展示会。
 もちろん、ただ純粋に見るだけでも実に楽しい展示ではありますが、「南総里見八犬伝」という文学作品、伝奇小説が、どのような形で人々の間に受容され、親しまれてきたか――そんなことに思いを馳せるのもまた一興であります。

 八犬伝に興味のある方は見て損はない、いや是非見るべきものかと思います。


関連サイト
 千葉市美術館 八犬伝の世界

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コメント

すばらしいレポートですねー。って私なんかがこんな発言、無礼ですよね・・・。

確かにあれだけの分量を読むのは、いつの世でも時間に余裕のある方でなければ難しいものがありますよね。

しかし、そうであるが故に八犬伝と歌舞が、そして錦絵がたくまざる跳躍を果たしたということなんでしょうか。

んーそれにしても、文章うまいですねー。尊敬~。

投稿: 奉孝 | 2008.10.01 21:33

いや、過分のお言葉、おそれいります(汗)

本当に、現代でも八犬伝を全部読んだ人というのは相当少ないですね。
でも、原作が長大だからこそ、ダイジェストやリライト、ビジュアル化が進むわけで…

そんなこんなで、小説とビジュアルの組み合わせがここまで見事に噛み合って、相乗効果を挙げているのは珍しいのかな…と感じました。

投稿: 三田主水 | 2008.10.02 00:16

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