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2008.10.29

「密謀 十兵衛非情剣」 折角の面白さながら惜しい一作

 国友村の鉄砲鍛冶たちが、不審火で全滅した背後に、新式銃の密造計画があることを知った柳生家は、富山に隠棲していたかの柳生十兵衛の隠し孫・大和十兵衛に探索を依頼する。江戸に出た十兵衛を、尾張柳生、大盗・梵天丸一味、さらに謎の武士たちが襲う。陰謀の陰に潜む、二階笠の紋を奉じる一党の正体は…

 十代将軍の治世を舞台に、新式銃の密造を巡る激しい暗闘を描く剣豪小説であります。
 主人公の大和十兵衛は、柳生十兵衛の孫で、柳生流のみならず諸流派の奥義に達した美丈夫、それでいて人と関わるのを嫌うという一風変わった人物。その十兵衛が、暗闘に巻き込まれ、数々の強敵を向こうに回し、やむなく必殺の剣を振ることに相成ります。

 この今十兵衛を囲む登場人物は、お人好しの盗賊に鉄火な辰巳芸者、今連也斎の異名を持つ尾張柳生の麒麟児、巨大な勢力を誇る大盗などなど、まずはエンターテイメントとして定番ながら楽しい面々。 そして描かれる陰謀の正体も、ちょっと大味ではありますが、敵の正体にまつわるどんでん返しが実に面白い――時代ものファンであれば、なるほど、言われてみれば! と感心すること請け合いのトリックであります――作品であります。


 が――キャラクターやアイディアは面白いのですが、残念な部分も多い本作。
 何よりも厳しいのは、文体のテンポがよろしくないため、せっかくの波瀾に富んだ物語の興趣がかなり削がれている点。言わずもがなの説明・表現が多く、ストーリー展開やアクションのリズムが崩れているのは全く勿体ないとしかいいようがありません。

 また、主人公である十兵衛も、自分に関わりがなければ目の前で人が殺されようとも見ぬ振りをするが、一度自分に火の粉がかかれば容赦なく牙を剥くという特異なキャラクターが、物語の中で生きていると言い難いのも厳しいところであります。
 さらにいえば武道に関するかなり初歩的な誤りも散見されるのですが、これはまあ、伊賀の柳生一刀流という例もあるので個人的にはさして気にしません。


 普段であれば書かないような厳しいことまで書いてしまいましたが、それも折角の本作ならではの面白さを惜しんでのこととと思っていただければ…と思います。


「密謀 十兵衛非情剣」(江宮隆之 二見時代小説文庫) Amazon
密謀―十兵衛非情剣 (二見時代小説文庫)

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