「封印の娘 大江戸妖怪かわら版」 少年は異界で己を知る
妖怪変化が暮らすもう一つの江戸を舞台とした和風ファンタジー「大江戸妖怪かわら版」シリーズの第三巻であります。
我々の世界からこの世界に落ちてきた少年・雀が、人間は自分一人しかいない世界で、一歩一歩成長していく様が描かれるこのシリーズ、今回は雀の前に不思議な女性が現れることになります。
かわら版記者として活躍する雀が、馴染みの芝居小屋で出会ったのは、座付作者で座頭の娘・雪消。美しい容姿を持つ彼女は、しかし、人食いの血を引くため、生涯を座敷牢に封印されて生きる運命にありました。
その雪消に惹かれるものを感じた雀は、彼女と仲良くなりますが、しかし悪旗本が彼女に目を付けたことから、思わぬ騒動に巻き込まれることとなります。
ここで雪消に雀が惹かれたのは、何も色恋沙汰というわけではなく、その瞳に、元の世界でも見たことのある光を見出したから。その光の正体については、ここでは述べませんが(妙に生々しいシチュエーションで描かれるのにはちょっと驚きますが)、なるほど、彼女と雀の関係を、単純な因果話などではなく、こういう形で雀自身の物語に繋げてくるのか…と、私は感心いたしました。
先の二巻で描かれたのが、雀の人間性回復の物語だとすれば、本作で描かれるのは、雀のアイデンティティ確認の物語と言うべきものであります。
元の世界で荒みきった生活を送っていたものが――いささか皮肉ですが――人間は己一人しかいない異界で暮らすことにより、人間的な生き方に目覚めていく雀。その彼が、己と全く異なる生き様を強いられる者と出会うことにより、さらに一歩進んで、自分が自分として生きるということの重みと美しさを理解する…和風ファンタジーの姿を借りながら、本作で描かれるのは極めてまっとうな少年の成長物語であると言えるでしょう。
もちろん、個性と人情豊かなキャラクターたちの顔ぶれも楽しいライトノベルとしても十分以上に楽しめる本作。キャラクター面だけでなく、舞台設定としても、妖怪変化が暮らす江戸は、確かにバーチャルなお江戸ではありますが、現実からデフォルメされたものであるからこそより一層、魅力的に、輝いて感じられます。
その江戸描写にページを割かれて、全体の割合としては雪消の物語の分量がそれほど多くないのは残念ではありますが、この江戸という存在そのものが、雀の成長に大きな意味を持つものと考えれば、これも仕方ない面はあるのかもしれません。
と、こちらがのんびりしている間にシリーズ第四巻「天空の竜宮城」も発売された様子。第五巻が出る前に、こちらも読まねばなりません。
「封印の娘 大江戸妖怪かわら版」(香月日輪 理論社) Amazon

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