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2008.10.12

「奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選」 伝奇な平次の冒険?

 私にとって近くて遠いのが捕物帖の世界。色々と読んでいるつもりではありましたが、大きな穴があったりして、その一つが「銭形平次捕物控」シリーズであります。
 そんなこともあって、末國善己氏の編によるオリジナルの作品集「奇譚 銭形平次」には、早速飛びついた次第です。

 収録作品は「金色の処女」「呪いの銀簪」「人肌地蔵」「七人の花嫁」「南蛮秘宝箋」「江戸阿呆宮」「火遁の術」「遠眼鏡の殿様」「密室」の全九編。記念すべきシリーズ第一作である「金色の処女」をはじめとして、伝奇色・怪奇色・ミステリ色の強い作品ばかりを集めた作品集となっています。

 ここで一つ白状してしまうと、私ははじめ、本書を「銭形平次捕物控」シリーズでも伝奇色・怪奇色の強い作品ばかりを集めたものと思いこんでいて、読んでいる最中に「? 全然伝奇じゃない!」などと思ってしまったのですが、ミステリが抜けておりました。まことに申し訳ありません。

 さて、まだ拘るかと言われそうですが、このサイト的に見た場合、特に取り上げるべきは「金色の処女」と「南蛮秘宝箋」の二作品。
 「金色の処女」は、江戸庶民の味方として市井で活躍する平次親分には珍しく(といっても上記の通りシリーズ第一作なのですが)、将軍家光の暗殺計画阻止のために奔走するという物語。しかも探索の最中に平次親分が目撃するのは、美女を生け贄とした奇怪な儀式で、なかなかにエログロ色の強い作品となっております。
 一方、「南蛮秘宝箋」の方は、事件そのものは、豪商を狙う姿なき魔手の謎を追うもので、一見ごく普通の捕物帖ですが、終盤で明かされる敵の正体とその理由というのが何と…! と意外な展開が待っている作品。ラストにも派手な一山が設けられていて、実に楽しい娯楽編として仕上がっております。

 さて、いささか強引に「伝奇な平次」を取り上げてしまいましたが、本書の解説でも触れられている通り、野村胡堂先生は実は元々は時代伝奇小説の名手。剣士たちを翻弄する奇怪な妖女の跳梁と銭屋五兵衛の宝探しが錯綜する「美男狩」、幕末を舞台に幕府の命運を左右する三万両を巡る争奪戦を描くロードノベル「三万両五十三次」など、時代伝奇ファンであれば是非ご覧いただきたい名作であります。
 残念ながら今ではほとんど忘れ去られている伝奇作家としての胡堂先生の姿が、このシリーズ第一作に見られるのはある意味必然であると同時に、何となく皮肉なものを感じます。


 さて、本書の紹介としてはお話が全く横に逸れてしまいましたが、本書のその他の作品も、「奇譚」とはいいつつも、いずれも興趣に満ちたウェルメイドなものばかり。
 この「銭形平次捕物控」は、全383作という膨大なシリーズでありますが、本書は「「銭形平次捕物控」傑作選」という副題そのままに、シリーズ入門書としての機能も果たしている、楽しい一冊だと思います。


「奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選」(野村胡堂 末國善己編 PHP文庫) Amazon
奇譚 銭形平次 (PHP文庫 の 8-1)


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コメント

久しぶりにお邪魔しました。銭形平次・・・・確かに近くて遠い感じですね。

この類の時代小説が”十手もの”と呼ばれてるの見たことがあります。なかなか上手いまとめ方ですね。江戸時代のお巡りさんでも、身分の高い人は十手を好まなかったと聞きますが。

投稿: 富山 | 2008.10.13 09:46

富山さんこんにちは。実際は捕物帖と怪奇ものは親和性が高いのですが、何となく人情ものという印象があって遠く感じられてしまいますね。

しかし、「十手もの」は確かに良いネーミングですね!
捕物帖だと同心や与力が主人公の場合違和感がありますし、奉行所ものだと今度は岡っ引きに違和感が…と思っていたのですが、これであれば両方に使えますね。

投稿: 三田主水 | 2008.10.15 22:06

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