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2008.10.17

「蛇神様」 真っ向ストロングスタイルの時代伝奇

 江戸の夜を騒がす謎の「きつね駕籠」。浪人・五十嵐伊織は、ある晩この駕籠に出くわすが、中に乗っていたのは、伊織のかつての許嫁・真琴と瓜二つの人形だった。この謎を追う伊織は、江戸を騒がす一党が、「蛇神様」なる存在を奉じている事を知る。伊織は、女賊・お蓮とともに一味を追うが、敵の魔手は彼を追い詰めていく…

 高木彬光先生といえばやはり本格推理小説界の巨匠でありますが、その高木先生が時代伝奇小説を相当の点数発表していた、というと驚く方がほとんどではないでしょうか。
 正直なところ、飛び抜けて傑作! というものでもないため、現在数作を残してほぼ絶版というのもわからない話ではないのですが、しかし伝奇時代劇アジテーターとしては見逃すのはいかにも勿体ないお話。こうして機会を見ては取り上げていきたいと思います。

 さて、そこで今回取り上げるのは、まず高木時代伝奇では代表作の一つと言ってよいであろう「蛇神様」(別題「蛇神魔殿」)。
 奇っ怪な魔術を操り徳川幕府転覆を狙う怪人たちの陰謀に、浪人剣士や女賊、薄幸の美女が巻き込まれてのミステリタッチの活劇であります。

 こうした角田喜久雄調の時代伝奇小説、いわば真っ向ストロングスタイルの時代伝奇は、今日日流行らないということか、あまり見かけなくなりましたが、しかし面白いものは今読んでも十分以上に面白い。

 生者に瓜二つの生き人形を乗せて夜毎跳梁するきつね駕籠の呪法、その毒牙にかかった者の意志を奪い、意のままに操る蛇神様の魔力…荒唐無稽といえば荒唐無稽、レトロといえばレトロかもしれませんが、しかしそれも料理する人間の腕次第。

 本作では、一体誰が敵で誰が味方かわからない――その意味では、人を意のままに操る蛇神様という設定はうまい――まま状況が二転三転、主人公が次々と窮地に追い込まれていくミステリ、サスペンスの味わいを巧みに織り込んでおり、定番の物語であっても最後までダレることなく楽しむことができます。
(まあ、ガチガチのミステリではないので、真犯人はこの手の作品に慣れていれば途中でわかってしまうのですが…)

 これはまあ、まず頷いてくれる方はいないと思いますが、高木先生、あるいは推理小説ではなく、時代小説をメインフィールドに選んでいれば、角田喜久雄先生の正当後継者ともなっていたのでは、と個人的には思っております。
 正直なところ、作品のクオリティに上下差がある(というかかなり…)ため、現在のこの扱いも不当とばかりは言えないのですが、しかし本作クラスの作品がもっと描かれていれば…と感じている次第です。


 ちなみに本作には「血どくろ組」という、これまた時代伝奇心を騒がせるタイトルの作品があるのですが、これについてはまたいずれ。


「蛇神様」(高木彬光 春陽文庫) Amazon

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