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2008.10.14

「家光謀殺 東海道の攻防十五日」 暗殺団vs怪人の攻防戦

 徳川将軍家の威光を見せ付けるために上洛の途につく家光。その命を狙う者たちの存在を偶然察知した甲賀者・芥川七郎兵衛は、松平伊豆守の指示の下、極秘裏に将軍を守護のための「怪人」を集める。宮本武蔵、由比正雪、丸橋忠弥…いずれも一芸に秀でた怪人たちと、姿なき暗殺者たちが、東海道を舞台に火花を散らす。

 笹沢左保先生が、「木枯らし紋次郎」など、時代小説の分野においても活躍されたことはつとに知られていますが、その作品の中には、実に魅力的な伝奇小説も含まれています。本作「家光謀殺」も、まさにその一つであります。

 本作の背景となるのは、寛永十一(1632)年の徳川家光の上洛。幕府の威光を天下に見せ付けるために行われたというこの将軍上洛は、当然のことながら幕府による一大公的行事であり、それゆえに記録も詳細に残っているためか、これまでも時代小説の題材となっています。
 その記録を最大限に活かしつつ、その隙間・背後に秘められた歴史に残らぬ壮絶な攻防戦を描き出すのが本作。上洛の行程を綿密に描かれるだけに、それと並行して主人公たちが全貌の明らかでない暗殺計画を暴き、対決していく様が何ともスリリングに感じられます。

 さて、面白いのは、その計画に立ち向かうのが、一種の非正規部隊というべきチーム――本作で言うには「怪人」たち――であること。将軍の示威行動である上洛において、暗殺の動きがあること自体が表沙汰にはなってはならぬ話。それゆえ召集されたチームは、幕府正規軍からもその存在を隠して隠密裏に動かざるをえず、本作にはいわば特殊部隊ものとしての味わいもあるのです。
 そして何よりもそのメンバーの意外性たるや――特に、幕府とは縁のなさそうな宮本武蔵、いやそれどころか、後に幕府に叛旗を翻す由比正雪と丸橋忠弥が加わっているのには驚かされます。彼らが何のためにチームに加わり、そこで何を見るのかは、本作の魅力の一つであります(ちなみに本作の武蔵像は、作者の一大連作「宮本武蔵」におけるそれと通じるものがあり、シリーズ外伝として読むこともできます)

 展開的には、暗殺計画に現代人から見ると驚くくらい大きな穴があるなど、ちょっと残念な部分もないわけではありませんが、それは本当に些細な瑕疵。歴史に残る十五日間の背後で繰り広げられた死闘を描き切った本作の魅力を損なうものではありません(特に暗殺団の総大将の正体の意外さたるや、伝奇ファン、剣豪小説ファンには堪らないものがあります)。
 骨太な伝奇大作として、おすすめできる作品です。


「家光謀殺 東海道の攻防十五日」(笹沢左保 文春文庫) Amazon
家光謀殺―東海道の攻防十五日 (文春文庫)

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