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2008.11.27

「ムヨン 影無し」第1巻 陰の部分を視て、負の側面を描く

 戦から落ち延びる最中、敵の刃にかかり落命した王。麾下の虎百将軍は、居合わせた母子の口を封じようとするが、菊という娘は王を生き返らせることができると口にする。その言葉通り菊の術で復活した王だが、その性格は邪悪に変化していた。将軍の息子・飛龍は、身を挺した父に救われ、その場から逃れ去るが…

 高橋ツトムと言えば、ドラマ化された「スカイハイ」、時代ものファン的には「士道 SIDOOH」といった作品(個人的には飯田さんの鋭い目が真っ先に浮かびますが)が印象に残りますが、その高橋先生の初原作作品となるのが、朝鮮を舞台とした時代漫画である本作「ムヨン 影無し」。
 媒体は携帯コミック、画を担当するのは韓国の若手漫画家・金正賢という、ユニークな形態の作品ではありますが、この第一巻を読んだ限りでは、伝わってくるのは、人間の負の側面を真っ正面から執拗に描く、高橋作品のテイストそのものです。

 舞台は(この第一巻の時点では)いつの時代とも知れない朝鮮の地。戦乱の最中に、落ち延びてきた主従と、絵に描いたものに生命を与える力を持つ不思議な少女が出会った時、悲劇が幕を開けることとなります。
 絵に描いたものに生命を与える術の遣い手の物語は、洋の東西を問わず存在していますが、本作で描かれる術は、絵に描かれて復活(コピー)したものは、本体の記憶を持ちながらもその性格を邪悪・残虐に変貌させ、そして何よりも、この世に存在するものであれば当然持つべき、地に落ちる影を持たないという奇怪なもの。その意味では本作は一種のドッペルゲンガー奇譚とも言えるかもしれません。

 正直なところ、物語の方向性自体は、この第一巻の時点ではまだ見えず、着地点もまた不明ではあるのですが、描かれる内容は、まさに高橋節。
 戦で荒れ果てた世界の有様や、何よりも飛龍の心に罪の意識として残る過去の悲惨な事件など…思わず目を背けたくなるような人間の世の陰の部分、人間の心の負の側面を、真っ向から描ききる様には――そしてそれにはもちろん、画を担当する金正賢氏の新人離れした筆の力によるところが大ですが――好悪を離れて圧倒されます。

 ここで菊の術のことをもう一度考えてみれば、復活して邪悪に変貌した人間の姿は、その人間が元々持っていた負の側面を拡大し、強調したものと見ることができるように思います。
 そしてもう一人の主人公である飛龍の持つ力、霊を視ることが出来る能力は、言い換えれば人間の世の陰の部分を視る力であります。陰の部分を視て、負の側面を描く二人の主人公は、そのまま二人の作者に重なって見える…というのは穿った見方かもしれませんが、なかなかに興味深いではありませんか。

 しかし、この世には陰や負なるものだけではなく、陽や正なるものもあって欲しいと感じるのもまた人情。彼ら二人が行く先に、たとえ小さくとも希望の光が――たとえそれが影を生むものであったとしても――あることを祈りたいと思います。


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