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2008.11.01

「半七捕物帳」鬼談(その一)

 岡本綺堂先生といえば、今ではやはり「半七捕物帳」の作者、ということになるのだと思いますが、このブログ的には、やはり忘れてはいけないのは、怪談・怪奇小説における巨大な業績でしょう。
 その綺堂先生の「半七捕物帳」が、本邦初の捕物帖として登場しながらも、同時に怪奇色・怪談色が濃厚なのは、ある意味当然のことかもしれません。
 というわけで、二回に分けて「半七捕物帳」の中から、特に怪奇色が濃厚なもの、江戸怪談に題材を求めたものを十編取り上げて紹介したいと思います。

 さて前半の五編は次の通り。
「お文の魂」
「津の国屋」
「猫騒動」
「あま酒売」
「白蝶怪」

以下に、各編を簡単に紹介いたします。


「お文の魂」
 「江戸時代に於ける隠れたシャアロック・ホームズ」たる半七の初お目見えが本作でありますが、そのシリーズ第一作から、怪談を題材としたものであるのは、実に興味深いことです。
 夢枕に夜毎現れては幼女の心を脅かす幽霊の謎を描いた本作は、古今の怪談に通じた作者らしい見事な筆致で、不気味な幽霊譚を描きつつも、結末で快刀乱麻の如く謎を解き明かし、見事に推理小説として成立させた佳品。事件の背後にある人間心理の描写などにはモダンな味わいがあり、綺堂先生らしい一編であります。
 ちなみに本作には題材となった怪談があり、「お住の霊」の題名で「KAWADE夢ムック」の岡本綺堂特集号に収録されておりますので、比較してみるのもまた一興でしょう。


「津の国屋」
 続いてはシリーズの中でも名作の一つ、死霊に祟られたかのように怪事が相次ぐ酒屋にまつわる事件を描いた「津の国屋」。もらい子にまつわる陰惨な過去を持つ津の国屋を舞台に、そのもらい子の死霊が跳梁、店に次々と凶事を引き起こすという陰々滅々とした物語が、一転、終盤でがらりとその裏側の絡繰りを見せるのには驚かされます。
 怪談として見ても、次々と津の国屋で起こる怪事の不気味さもさることながら、何と言っても物語冒頭の、常磐津の師匠が出会う奇怪な少女の描写に、綺堂怪談の骨法とも言えるものが感じられるのが興味深いところです。


「猫騒動」
 お次は、実際の(?)江戸怪談に題材を求めた作品。異常なまでの猫好きの老婆が、怪死を遂げた事件と、その背後の悲劇を描いた本作は、実はかの「耳袋」にほとんど同様のエピソードがあり、これをほぼそのまま下敷きにしております。
 とはいえ、そこはさすがに綺堂先生。巧みにこの奇談を換骨奪胎して、探偵役たる半七を活躍させたミステリにとして仕上げていると同時に、何とももの悲しくやるせない物語として成立させているのが目を引くところです。


「あま酒売」
 さて四作目は、正真正銘のホラーとしても通じるお話。行き会った人間は病を得るという、奇怪なあま酒売りの老婆によって、江戸の町が恐怖に包まれる様が描かれるのですから…
 その恐怖に相対するのはもちろん半七ですが、そうこうするうちに事件は意外な方向に展開。そして語られる老婆の正体は、これはもう怪奇というより伝奇というべきもので、まさか「半七捕物帳」でこのような作品に出会うとは…と大いに驚かされました。
 そしてさらに驚くべきは、本作で描かれた老婆の一件が、本作の設定よりもだいぶ以前ではありますが、「武江年表」に記載されていること。事実は小説よりも奇なり、ということでしょうか。


「白蝶怪」
 前半のラストは、シリーズ中の異色作を。季節外れの冬の夜にひらひらと舞う白い蝶が招くかのように起きた怪事を描く本作は、半七捕物帳とは言い条、半七は登場せず、その一つ前の世代の物語であります。
 分量的にも中編といってよいボリュームの本作、物語のタッチや道具立てもミステリというよりもむしろ怪奇小説調で、綺堂先生の抑えた筆致が、より作中の緊迫した空気を強める効果を挙げており、不思議な味わいの作品となっています。
 半七捕物帳を離れても、一種の怪奇探偵小説として、魅力的な作品であります。


以下、続きます。

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