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2008.11.08

「魔京」第三篇「黄金京」 応仁ダニッチの怪

 管領・細川勝元の嫡子・聡明丸が生まれたときから、京の運命は少しずつ狂い始めた。赤子ながら成熟した知性を持つ聡明丸は、周囲の人々を操り、混乱を広げていく。かくて京を血と炎に染めて始まった応仁の乱の背後で跳梁する奇怪な妖魔。京魄を用いて聡明丸が生み出さんとする黄金京とは…

 魔京第三篇は室町篇。近年、室町時代を舞台とした時代伝奇小説の達人たる作者にとってはまさに自家薬籠中の題材、それも日本史上に名高い応仁の乱を如何に描くかと思えば――意外、それは室町版ダニッチの怪とも言うべき伝奇ホラーでありました(以下、ネタバレご注意下さい)。

 舞台となる応仁の乱は、日本史の授業でも必ず(おそらく)取り上げられる一大事件であり、当然のことながら、これを扱った歴史小説・時代小説も枚挙に暇がありません。朝松作品としても、既にぬばたま一休シリーズの「応仁黄泉圖 」の題材とされておりますが、そちらでは乱がどちらかといえば物語の背景として置かれていたのに対し、本作においては、この乱そのものの成り立ちについて、魔術的解釈が為されることとなります。

 朝鮮王の陰謀(京魄は元々朝鮮から奪われたもの、という設定がここで生きます)によって、歪んだ存在として生まれた細川勝元の二人の子。その狂気は果てなく拡大して未曾有の大戦を引き起こし、ついには京の、いや物理的次元の存在をも危うくすることに…
 これまでのエピソードでは、どれほど奇怪な術法の応酬が描かれようと、その目的は現世における京の――京魄の――主導権を巡る争いであった「魔京」ですが、この室町篇においては、想像を絶する地への「遷都」が企てられることとなるのです。

 そして見逃せないのは、魔童子(という言葉も似合わぬほど更に幼い)・聡明丸(後の妖管領・細川政元)と共に現世に誕生したのが、巨大な顔を持つ姿なき妖魔であるという点。
 透明な怪魔の跳梁、異界から生まれた人外の姉弟、現世を崩壊させんとする企て…ホラーファンであればニヤリとさせられるでしょう。ここで描かれているのは、あのH・P・ラヴクラフトの名作「ダニッチの怪」を想起させる怪奇の世界であります。

 東軍が擁する巨大な動く井楼から放たれる無数の火矢が、西軍が作り出した巨大な地下迷宮「御構」に降り注ぐという黙示録的風景の中で繰り広げられる魔戦は、これまで描かれた応仁の乱の中で、最も奇怪かつ魅惑的なものと言っても差し支えないでしょう。
(結末がいささか唐突という感がなきにしもあらずですが、聡明丸の言葉の通りだとすれば、納得はできます)


 そして次なる舞台は安土桃山、中心となるのはあの織田信長――信長と石、と言えば、やはりあのエピソードが思い浮かびますが、さて。


「魔京」第三篇「黄金京」(朝松健 「SFマガジン」2007年7月号、9月号、11月号、2008年1月号掲載)


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