« 「ムヨン 影無し」第1巻 陰の部分を視て、負の側面を描く | トップページ | 「デアマンテ 天領華闘牌」第2巻 ユニークな世界の中で »

2008.11.28

「双頭の虎 山嵐妖綺伝」 隠れた名手の快作

 日清戦争での戦勝に沸く日本。横浜の遊郭に足を運んだ福地桜痴は、途中で瀕死の若者から、後藤新平宛の包みを預かる。その包みを巡り、急に慌ただしくなる桜痴の周辺。ついに何者かに誘拐された桜痴救出に立ち上がったのは、快男児・西郷四郎だった。果たして包みの正体は、桜痴の行方は。事件の背後には、日本の命運を握る秘密が…

 隠れた、というか、知る人ぞ知ると言うか、タツノコプロやスタジオぴえろでアニメ監督として活躍し、押井守の師でもある鳥海永行先生は実は時代小説の名手。「水無し川かげろう草子」「球形のフィグリド」「聖・八犬伝」等々…ライトノベル的なレーベルからの刊行のため残念ながらあまり目立たないのですが、時代に対するユニークな切り口と巧みなストーリーテリングは、さすがは、と毎回感心させられます。

 さて本作「双頭の虎 山嵐妖綺伝」は、角川文庫(のうち、今で言えばスニーカー文庫に相当するレーベル)から刊行された作品。舞台は明治時代も後半、日清戦争で日本の勝利がほぼ固まり、下関で講和会談が行われていた時期の物語であります。
 そして主人公となるのは、(元・)講道館の天才児、必殺技の「山嵐」で今なお知られる西郷四郎と、なんと福地桜痴というのが面白い。福地桜痴(源一郎)と言えば、はじめ幕府の通辞として出仕し、明治となってからはて伊藤博文らと結びついて、「東京日日新聞」で御用記者として活躍、引退した後は歌舞伎座の座付作者となったという、何とも不思議な人物。ある意味明治という時代を体現した「ぬえ」的人物ですが、本作ではその座付作者時代の桜痴を、愚痴っぽい、しかし好奇心旺盛な人物として描いており、この波瀾万丈の物語の語り手として、まことにふさわしい存在かと思います。

 この二人の他、登場人物は多士済々。後藤新平に星亨、伊庭想太郎に仕立屋銀次、ジョルジュ・ビゴーに李鴻章…果たしてこれらの人物たちに如何なる繋がりが、と思われるかもしれませんが、それを結びつけるのが本作で描かれる、ある大陰謀。
 当時、スキャンダルに巻き込まれて社会的にはかなり追い込まれていた後藤を中心としたこの企ては、一見、さほど大がかりなものには見えませんが、しかし終盤で明かされるその真の狙いを知った時は、大いに驚くと共に、なるほど! と感心いたしました。
 そして、この陰謀の首魁であり、四郎の強敵として立ち塞がる謎の怪人・北洋の虎の正体の伝奇性たるや…さすがは、としか言いようがありません。

 ただ残念なのは、どうも本作には前史に当たる作品があるらしく、四郎と桜痴の関係や、何よりも四郎のキャラクターが、本作だけを見ているとよく見えてこない点。特に四郎は、本作での活躍がスーパーマン級なだけに、その背景があまりクリアに見えないのが、残念ではありました。
 とはいえ、上に述べたような本作の魅力はやはり捨てがたいもので――やはり鳥海先生の時代小説は見逃せない、と改めて感じた次第です。


「双頭の虎 山嵐妖綺伝」(鳥海永行 角川文庫) Amazon

|

« 「ムヨン 影無し」第1巻 陰の部分を視て、負の側面を描く | トップページ | 「デアマンテ 天領華闘牌」第2巻 ユニークな世界の中で »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/43249987

この記事へのトラックバック一覧です: 「双頭の虎 山嵐妖綺伝」 隠れた名手の快作:

« 「ムヨン 影無し」第1巻 陰の部分を視て、負の側面を描く | トップページ | 「デアマンテ 天領華闘牌」第2巻 ユニークな世界の中で »