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2008.11.06

「神秘昆虫館」 宝の鍵は幻の蝶

 田安家の重臣を父に持つ一式小一郎は、ある晩、宿敵の一ツ橋家士・南部集五郎との決闘の最中、「永生の蝶」を求める美しい女性の声を聞く。謎の女性に魅せられて旅に出た小一郎は、秘境に立つ昆虫館に辿り着くが、それがために、彼は莫大な財宝の秘密を秘めた永生の蝶を巡る争いに巻き込まれることに…

 国枝史郎の時代伝奇小説には、ある種共通するパターンやキャラクター、ガジェットというものがあり、これはこれでなかなか楽しいのですが、この「神秘昆虫館」もそれに当てはまるものであります。
 不思議な女性の導きで一種の異世界に迷い込む若者、人里離れた地に設けられた理想郷、怪建築に妖術師、山棲みの異人、貴人とその配下の怪盗…本作を構成するこうした要素は、ファンにとってはお馴染みのものばかり。あまりそういうところばかりに注目するのもいかがなものか、と自分でも思いますが、国枝作品の場合、これが歌舞伎の約束事的味わいにすらなっていて、これを前向きに楽しむのが良いように思います。

 さて、そんな本作で、最も注目すべきは、物語の中心、争奪戦の的である「永生の蝶」であることは間違いありません。
 謎の昆虫館主人が欧羅巴から持ち帰ったという雌雄一対の蝶にして蝶でないもの――呼吸もすれば脈もある、飛びもすれば餌も食べる…それでありながら、その身を構成するのは柔らかな肉ではなく、自律的に動くものの生命は宿っていないという、まさしく神秘の存在、それがこの永生の蝶。
 そしてこの幻の蝶を交尾させて子を産ませた者は、莫大な財宝を得られるという――宝の在処を示す鍵の存在は、伝奇小説において枚挙に暇がありませんが、その奇怪さ、ロマンティックさにおいて、群を抜くものでありましょう。

 まあ、問題は、作品が蝶の争奪戦に終始してしまって、肝心の蝶そのものの秘密は…という点ではありますが、それも国枝作品にはままあること。
 そんな大きな欠点は持ちながらも、道具立てのユニークさや、主人公の脳天気な個性、そして何よりもテンポ良く展開していく物語にひっぱられて、最後まで楽しく読むことができるのは、さすがだと思います。

 相変わらずすっぽ抜けた結末に苦笑しつつも、しかし何だか許せてしまうのは、やっぱりこの国枝節あってのことなのだろうな、と感じるところです。


「神秘昆虫館」(国枝史郎 未知谷 国枝史郎伝奇全集第3巻所収) Amazon

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