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2008.11.11

「本能寺六夜物語」 闇に浮かぶ六つの真実

 本能寺の変より三十数年後、とある山寺に六人の男女が集められた。僧侶、乞食、商人、武士――境遇も職業も全く異なる六人に共通するのは、それぞれがそれぞれの形で本能寺の変に関わったこと。一夜に一人ずつ、己の体験談を語る彼らの物語の末に浮かび上がる真実は…

 私がいま、自信をもっておすすめできる時代小説作家の一人が、岡田秀文先生であります。寡作の気味ではありますが、その歴史解釈とドラマチックな物語展開、そして何よりも、サスペンスとミステリ色の濃厚な作品群は、私の最も好むところであります。
 本作「本能寺六夜物語」は、岡田先生がが小説推理新人賞を受賞した後の第一作、初単行本でありますが、岡田節とでもいうべき味わいは、本作の段階で、既にはっきりと感じられるかと思います。

 作品の構成は、連作短編形式――それぞれの形で本能寺の変に関わった六人の男女が、己の体験談を語る全六話の短編で構成されています。

 信長の茶坊主が見た信長の最後の姿と、ある人物が秘めたおぞましい執念の果てが語られる「最後の姿」。
 変の直後、京から徳川家康と共に逃れた穴山信君の死の陰の策略を、かつての家臣が語る「ふたつの道」。
 商家の奉公人の目に映った、死を覚悟の上で己の意気地を貫き二条城に奔った武士の姿「酒屋」。
 かつての京都所司代の役人が語る、混乱が収まったはずの京に跳梁する黒衣の怪人の怪を描いた「黒衣の鬼」。
 常に信長の傍らにあった森蘭丸に深く懸想した女の、凄まじい恋情と嫉妬の物語「近くで見ていた女」。
 そしてかつての光秀の小姓の口から明かされる、本能寺の変の真実「本能寺の夜」。

 いずれも短編ながらも、その中で描かれる意外な裏面史とでもいうべき内容と、そこに浮かび上がる有名無名の人々の人間模様は実に興趣に富んだ、エキサイティングなもの。
 伝奇的な謎解きの妙味もさることながら、「本能寺の変」という一大事件とその前後の歴史のうねりにより、己の運命を変えられた人々、その時に心に焼き付いたものを胸に生きる人々の姿から感じ取れる、歴史の――そしてそれを形作り動かす人間の世界の――非情には、後の岡田作品に通じるもの見て取れます。

 尤も、完成度の点でいえば、最初期の作品ということもあって、特に構成の点でいささか食い足りない部分――もう少し、各話に有機的な結びつきが欲しかった――はあるのですが、それを差し引いても、完成度の高い作品であることは間違いありません。
 本能寺の変について語った作品は古今無数にありますが、その中でも異色の一冊として、記憶に残るべきものかと思います。


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