« 「半七捕物帳」鬼談(その一) | トップページ | 「キジムタン」 少女剣士の魂の遍歴の行方は »

2008.11.02

「半七捕物帳」鬼談(その二)

 怪奇・怪談の「半七捕物帳」前回からの続き、以下の後半五編の紹介であります。
「人形使い」
「一つ目小僧」
「むらさき鯉」
「柳原堤の女」
「春の雪解」

「人形使い」
 後半一作目は あやつり人形芝居一座の人形使い二人の間に起きた血なまぐさい事件に半七が乗り出す本作を。
 本作の物語、事件の内容自体は、さまで特別なものではないのですが、その事件の発端となったのは、夜更けに人形たちが独りでに動き出し、互いに切り結んだという怪事なのですから面白い。
 このあり得べからざる怪異とも夢幻とも評すべき景色を、綺堂先生は一流の筆でもって描き出しており、この場面だけでも、本作を人形怪談の佳品と呼ぶのにふさわしいと感じる次第です。


「一つ目小僧」
 前回紹介いたしました「猫騒動」同様、本作も江戸怪談をベースとした作品。しかし本作は、タイトル通り一つ目小僧にまつわる有名な怪談を題材としつつ、それに極めて現実的な解を提示してみせた作品であります。
 正直なところ、捕物帳としての面白みとしては今ひとつではあるのですが、冒頭の、雨のそぼ降る中、古屋敷に現れる一つ目小僧の姿はさすがにムードがあり、その辺りも含めて、ここで取り上げる次第です。


「むらさき鯉」
 魚が人間に変じて命乞いをする、殺生を戒めるという物語は、いわゆる「イワナの怪」のようにしばしば聞く話ではありますが、本作で登場するのは、殺生禁断の御留川で捕らえられた紫鯉。
 ご禁制の紫鯉を捕らえて身すぎとしていた男の妻の前に現れ、その鯉と共に去った怪しげな女――紫鯉の化身としか思えぬその女が招いたかのように次々とおこる奇怪な事件もムードたっぷりで、魚妖にまつわる作品も幾つもものしている綺堂先生ならでは、の作品と言えるかもしれません。


「柳原堤の女」
 江戸には様々な「魔所」というべき場所が存在したことが伝えられていますが、本作はその一つを舞台として描かれる奇譚。
 魔所として恐れられる柳原堤に出没するという怪しの女――町の物好きが正体暴きに乗り出したことから、思わぬ事件に発展する本作は、物語そのものもさることながら、当時の人々の対あやかし観とも言えるものが下敷きとなっているのが実に興味深い。綺堂作品の背後にあるのは、こうした、生の江戸の人々の精神であり――こればかりは現代の人間には書けぬ味わいだな、と感心いたします。


「春の雪解」
 さて、私が「半七捕物帳」全編の中でも最も好きな作品を挙げて結びとしたいと思います。
 入谷のさる寮の前で、按摩を招こうとする女と、そこから逃げようとする按摩という場に行き合わせた半七が、按摩から聞き出した話に興味を持って探索を始めるのですが…
 本作、職業探偵である半七が、果たして事件かどうかもわからぬものを探索するというスタイルも一風変わっていて面白いのですが、半七が興味を持つきっかけとなった按摩の語る内容が、実にいい。
 内容的にはさまで珍しいものではなく、むしろありふれたものではあるのですが、それを補って余りあるのが綺堂先生の筆。按摩が感じた「もの」を想像するに、こちらの背筋までぞうっとしたものが残る…綺堂怪談の妙味ここにありというべきでありましょう。


 以上十編、駆け足で紹介して参りましたが、いかがだったでしょうか。
 短編ミステリの内容を紹介するのはなかなかに難しいもの、それも時として内容そのものではなく、内容を構成する一部分を前面に取り上げてというのは、想像以上に難しいものでありましたが、この拙い文章から、「半七捕物帳」の、意外に語られていない魅力の存在を知っていただければ、これに勝る悦びはありません。

|

« 「半七捕物帳」鬼談(その一) | トップページ | 「キジムタン」 少女剣士の魂の遍歴の行方は »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/42986261

この記事へのトラックバック一覧です: 「半七捕物帳」鬼談(その二):

« 「半七捕物帳」鬼談(その一) | トップページ | 「キジムタン」 少女剣士の魂の遍歴の行方は »