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2008.11.09

「江戸宵闇妖鉤爪」(その一) 明智小五郎、江戸に現る

 世情雑然たる幕末の江戸を騒がす猟奇殺人。人間業とは思えぬその残虐な手口から「人間豹」と呼ばれるその怪人に、御家人・神谷芳之助は二人の恋人を殺害されてしまう。この憎むべき怪人との対決を決意した隠密廻り同心・明智小五郎だが、人間豹の次の標的は、明智の妻・お文だった…

 第一報を耳にしたときから心待ちにしておりました、松本幸四郎と市川染五郎の歌舞伎「江戸宵闇妖鉤爪」を見て参りました。
 江戸川乱歩先生の「人間豹」を、幕末を舞台に翻案し、江戸の街を舞台に明智小五郎と人間豹が対決するという、誰もが驚いたであろうこの企画。蓋を開けてみれば、原作+αで乱歩世界を巧みに歌舞伎の世界で展開してみせた、実に興味深い作品でありました。(以下、ネタバレにご注意ください)

 原作の舞台は昭和初期の東京でしたが、本作の舞台は幕末の江戸。当然、作中で描かれる風俗もそれに合わせて移し換えられていますが、それがさしたる違和感もなく、歌舞伎的世界への移植がなされているのが面白いところです。
 また、単純な移し換えのみならず、神谷と人間豹を一人二役で演じる染五郎の早変わり、染五郎の鼓や新内節に合わせた舞、そしてラストの宙乗りまで、この舞台ならではの場面を巧みに織り込んでいるのが目を引きました。

 と、染五郎絡みの場面ばかり挙げてしまいましたが、ひ弱い神谷と魔人・人間豹を演じ分けた様は、やはりさすがと言うべきもの。一方、明智小五郎を演じた幸四郎は、原作のイメージからすると、ちと重厚かな、という印象もあるのですが、荒れ狂う人間豹を抑え、物語を収める役としては、これくらいで良いのかもしれません。
 しかし一番感心させられたのは、人間豹に狙われる三人の女性を演じ分けた市川春猿で…可憐な町娘、年増の女役者、そして気丈な同心の女房――ことに明智の女房・お文は、如何にも歌舞伎らしいキャラクター化が為されていて、嬉しくなってしまいました。


 さて、歌舞伎に限らず、今回のような原作にある種のアレンジを加えた作品においては、原作以外の、同じ作者のネタを織り交ぜてくることがよくあるもの。
 本作でもそれに期待していたのですが、その期待は裏切られることなく、いや想像以上のものがありました。

 人間豹・恩田の母である怪人・百御前が初めて明智らの前に姿を現す際に、経文めいた口調で呟くのが、乱歩とくればある意味定番である「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」という言葉であるのは、少々ベタかもしれませんが、やはり楽しい遊び。
 それだけではなく、明智と人間豹の立ち回りの中で「鏡地獄に陥ってウヌが姿をとくと見やがれ」という科白があったり、明智の家が団子坂にあったりと、ファンであればニヤリとさせられる要素が随所に含まれておりました。

 が――乱歩作品の要素は、お遊びの域を超えて、作品の根幹にまで関わる部分にまで用いられていました。
 それは…というところで、少々長くなってしまうので、次回に続きます。

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