« 「へるん幻視行」 ハーンの瞳に映るもの | トップページ | 「主水之助七番勝負 徳川風雲録外伝」 五番勝負「野獣剣 久蔵」 »

2008.11.18

「甲賀忍者お藍」 戦国のエピローグに

 大御所・徳川家康の懐刀でありながらも、その政に強く反発していた本多正純は、家康の死を機に、自らの理想である人が人らしく生きられる世を作るための政を始めようとする。正純に仕える甲賀忍者・お藍は、彼の理想を助けるために陰で動くが、その前に、残虐非道な根来忍者・羅王が立ち塞がる。

 反骨の忍者・服部三蔵と、家康配下の謀臣・本多正純の友情を描いた「天駆け地徂く」の続編が、本作「甲賀忍者お藍」であります。タイトルロールであるお藍は、前作から登場し、三蔵と正純の双方から愛された女忍。彼女の目を通して、家康亡き後の正純の、戦国の武人たちの最期の姿が描かれることとなります。

 本多正純について、史実を見れば、家康亡き後もしばらくの間権力の中枢にあったものの、やがて周囲に疎まれ、ついには秀忠の不興を買って流罪となった…というのがその後半生。
 そんなこともあって、特にフィクションの世界においては陰険な悪役として描かれることが多いこの人物ですが、前作及び本作においては、人が人らしく生きることを妨げるものとして、家康の政に密かに敵対する人物として描かれているのが特色であります。

 主人公たるお藍も、その正純の理想に共鳴して、身命を賭して彼のために働くわけですが、史実が証明するように、その前途は決して平坦なものではありません。
 家康の、そして正純の政は、少数の才ある人間のリーダーシップにより動かされるもの。それに対して、秀忠の世の政は、大老・老中といった複数の政治家・官僚がシステマチックに動かすものであります。
 本作では、この政治システムが確立していく中で、正純が孤立し、没落していく様が描かれることとなります。

 それはいわば、時代から彼が取り残されていくということでありますが、取り残されたのは、一人彼のみではありません。
 本作でその晩年が描かれる坂崎出羽守、福島正則――この二人は、史実においてもその最期/没落に関して、正純と密接な関係を持つ人物であります――もまた、個の力を必要としない、いや排斥すらするシステムの中で孤立した人物。
 彼らは、その境遇において、己の命や地位をもって、その流れに無言の抗議を行ったものとして描かれますが、その姿は、やはりもの悲しいものとして感じられます。

 本作の舞台となる江戸時代初期は、戦国時代の清算期、ある意味エピローグともいえる時代。
 冒頭で、本作は「天駆け地徂く」の続編と述べましたが、あるいは前作の長いエピローグと言うべきかもしれません。

 ただ残念なのは、作中における正純像に、理想に生きた政治家としての説得力が、さして感じられず、それゆえその没落が、単に脇が甘かった故のものに見えてしまうことでしょう。
 そのため、お藍の悲劇的な活躍にもさしてカタルシスが感じられず、ただただ陰鬱なムードの物語になってしまったのは、厳しい言い方ではありますが、いかがなものかな…と感じた次第です。


「甲賀忍者お藍」(嶋津義忠 講談社) Amazon
甲賀忍者お藍


関連記事
 「天駆け地徂く」 三蔵と正純、巨人に挑む

|

« 「へるん幻視行」 ハーンの瞳に映るもの | トップページ | 「主水之助七番勝負 徳川風雲録外伝」 五番勝負「野獣剣 久蔵」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/43149216

この記事へのトラックバック一覧です: 「甲賀忍者お藍」 戦国のエピローグに:

« 「へるん幻視行」 ハーンの瞳に映るもの | トップページ | 「主水之助七番勝負 徳川風雲録外伝」 五番勝負「野獣剣 久蔵」 »