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2008.12.31

「ガゴゼ」第5巻 神と怨霊への惜別の賦

 室町暗黒伝奇「ガゴゼ」が、この第5巻で完結と知ったときには、少なからず戸惑いを覚えたことでした。確かに物語は盛り上がってきたけれども――いやそれだけに――ここで完結するのはいかにも勿体ない、いやそれ以上に完結できるのか、といささか失礼ながら感じてしまったのですが、それは全くの杞憂。実に見事な結末を見せていただきました。

 足利義満の命を受けた陰陽師・土御門有盛により、力を奪われて無力な少年の姿と化した伝説の大鬼・ガゴゼ。そのガゴゼと、お目付役の式神・チンロンの旅の中で徐々に明らかにされてきた、ガゴゼの存在に秘められた謎と、それが様々な人々に影響を及ぼした果てに生まれた秘密。それが、この第5巻では明らかにされます。

 失われたガゴゼの記憶の在処は。ガゴゼと瓜二つの少年神の正体は。怪神カシリサマを崇める有盛(実は××)の策謀の行方は。義満の傍に召されたヒロイン・鬼無砂の運命は。そしてかつてガゴゼを祀ってきた巫女と鬼無砂が瓜二つの理由は…
 この暗く複雑な、そしてそれだけに魅力的な物語を構成する全ての要素が一つの真実に向かって収束し、その全てが明らかになる――必ずしも直接描かれたわけではありませんが、作中の描写から容易に読み解くことが可能でしょう――展開には、久方ぶりに、良質の伝奇ものに触れたときに感じる、あの興奮と驚きを感じた次第です。

 漫画としても、地獄絵図も容赦なく描き出す作者の筆力は最後まで衰えることなく、そしてまたラストに展開される、京の都を舞台に展開する一大カタストロフが実にクライマックスらしい派手さで、大いに満足いたしました。

 全5巻というのは、決して多い分量ではありませんし、また個人的には中盤の展開はちょっとすっきりしない部分もあったのですが、しかし完結してみれば、実に素晴らしい時代伝奇漫画であったと、断言することができます。


 最後に蛇足を承知で追記すれば、本作が室町時代、それも足利義満の時代を舞台に描かれたことには、確かに必然性があったと、結末まで読んで感じました。

 本作で描かれた、ガゴゼ(とその敵)に代表される、荒ぶる力を持つ人ならぬ存在――すなわち神と怨霊――が、人間の歴史に影響を与えた最後の時代、それこそが「太平記」に描かれた室町時代初期であります。それまでの我が国の歴史は、人間が、人間以上の力を持つ存在を畏れ、宥め、崇めることが、その原動力の一つとして、確かに存在していたのです。
 しかし、それ以降の歴史には、歴史を動かすほどの神と怨霊の姿は、ほとんど見ることができません。言い換えれば、その時期に人間と、神と怨霊の決別が行われたということであります。

 ここで本作を振り返ってみれば、その内容が、まさにこの決別を描いたものであると気付きます(今頃になって気付いたのは汗顔の至りですが…)
 消えゆく神と怨霊への惜別の賦――本作は、あるいはこう表することができるのではないでしょうか。


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