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2008.12.04

「玄庵検死帖 皇女暗殺控」 ただ小さな命のために

 老中・安藤信正の命で、江戸に降嫁する皇女和宮の主治医兼護衛者として同行することとなった逆井玄庵。だが、彼の護る和宮は、影武者であった。いつしか名もない影武者の和宮と互いに惹かれあう玄庵だったが、江戸に向かう途中、何者かの狙撃により影武者は命を落とす。復讐に燃えて下手人を追う玄庵だが。

 優れた蘭医にして無外流抜刀術の達人、奉行所の検死医ながら勤王佐幕を口にする天の邪鬼な「逆らい玄庵」の異名を持つ快男児・逆井玄庵の活躍を描いた幕末ハードボイルドの、待望の第三弾であります。

 これまでの舞台から二年遡って今回描かれるのは、玄庵が検死医となる前に出会ったある事件。それは、皇女和宮降嫁にまつわるある秘事――江戸に下る和宮には密かに影武者が用意されていたという、その秘事に心ならずも触れることとなった玄庵が、己が生き延びるため、そして何よりも、歴史のうねりに翻弄された不幸な娘のために、決死の戦いに挑むこととなります。

 皇女和宮を巡っては、史実で語られるものの他にも、替え玉説など、様々なエピソードが伝わっていますが、本作はその替え玉説をアレンジし、攘夷派の襲撃が噂される道中において身代わりとなるため、金で買われた名もない山娘が和宮の影武者を勤めていた、という趣向。
 とかく目立つ玄庵は、襲撃の目を引きつけるため、影武者の主治医兼護衛役として抜擢されるのですが、任に成功しても功を公にできず、失敗すれば詰め腹を切らされるという、損な役回りであります。

 それにしても毎回毎回陰謀に巻き込まれ、割に合わない役目に命を賭ける羽目となる玄庵ですが、しかしそれでも決して己を単なる走狗に貶めることなく、譲れぬものを護って戦うのが、彼の、本シリーズの最大の魅力。
 陰謀に巻き込まれて命を落とした薄幸の娘のために、一文の得にならないのを承知で死地に飛び込む――定番といえば定番ですが、魑魅魍魎跋扈する地獄変の幕末の世にあって、逆井玄庵ここにあり、と言うべきその生き様は実に小気味よく感じられます。

 加野ファンであれば誰が真犯人であるかすぐ気付くかと思いますし、オチも途中で読めてしまうのですが、そんなことは小さい小さい。
 大義名分や天下国家に背を向けて、顧みられることなく消えていく小さな命のために怒りの刃を振るう…そんな玄庵の心意気、ヒロイズムに、我々はただ酔いしれればよいのであります。


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