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2008.12.14

「元禄大戸島異聞」 男泣き必至の忠臣蔵異聞

 時は元禄十五年十二月、大戸島の住民たちは、海から来る巨大な怪物の脅威に、武士を雇って対抗しようとしていた。後に戦後日本を蹂躙することになる怪獣ゴジラ――その前身に挑む七人の武士の中には、播州浪人・芹沢と尾形の姿があった…

 漫画家、そして時代劇アジテーターとして活躍する近藤ゆたか先生の長編の代表作が「大江戸超神秘帖 豪神」であることは言うまでもありませんが、短編の代表作は、と言われれば、私はこの「元禄大戸島異聞」を挙げます。
 大戸島と聞けば怪獣ファンの方はおわかりかと思いますが、かのゴジラの生まれた地。本作は、江戸時代を舞台に、ゴジラと侍たちの死闘を描いた男泣き度高の名品なのです。

 時は元禄十五年十二月…大戸島の住民たちは、海から来る巨大な怪物の脅威に、武士を雇って対抗せんとします。その怪物こそは、後に戦後日本を蹂躙する怪獣ゴジラ――が水爆実験で突然変異を起こす前の姿――、そしてゴジラに挑む七人の武士の中には、播州浪人・芹沢と尾形の姿が…

 と、今度は時代劇ファンの方であればよくご存知かと思いますが、元禄十五年十二月、播州浪人と来ればこれはもう「忠臣蔵」。
 つまり本作は、なんと「ゴジラ」+「七人の侍」+「忠臣蔵」のハイブリッドなのであります!

 …これではまるでイロモノのようですが、しかし本作を描くのは、時代劇と怪獣ものに並々ならぬ愛を注ぐ近藤先生。まだ大怪獣になる前の、かろうじて生身の人間の攻撃で傷を負わせることができるゴジラと侍たちの攻防は、わずか二十ページという限られた分量を逆手に取るように、冒頭からラストまで死闘の連続で迫力十分であります。
 しかし、それよりも何よりもグッと来るのは、芹沢と尾形が、大石内蔵助から贈られたあの討ち入り装束をまとってゴジラとの決戦に向かうことで――何故彼らが四十七士に加わらなかったか、それは明確には描かれてはいないのですが、かつての同志が主君の仇を討たんとしているまさにその時に、大戸島の島民のため、これが俺達の討ち入りだとばかりにゴジラ相手に命を燃やす二人の姿は、単なるパロディの域を超えた男泣き時代劇の世界であります。

 そして――言うまでもなく芹沢と尾形といえば、昭和二十九年のゴジラとの戦いにおいて重要な役割を果たした人物。その二人とゴジラの因縁の結末を描いて、本作は幕を閉じます
 オキシジェン・デストロイヤーで遂に倒されたゴジラ、その亡骸から海中に消えた錆びた脇差だけが、元禄時代の死闘を物語る…何とも痺れるラストではありませんか。


 本作が発表されたのは、二十年近く前に刊行された「THEゴジラCOMIC」というアンソロジー。骨法でゴジラで霊界な風忍先生の怪作が掲載されたことで一部で知られるアンソロジーですが、こんな名作も載っていたんですよ、と私は声を大にして言いたいところであります。


「元禄大戸島異聞」(近藤ゆたか 宝島社「THEゴジラCOMIC」所収) Amazon

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