« 「マドモアゼル・モーツァルト」 天才であること、自分であること | トップページ | 「東京事件」第2巻 抹殺されしものの逆襲 »

2008.12.29

「月下の剣客 五城組裏三家秘帖」 ありそうでなかった伊達家秘帖

 生類憐れみの令を嘲笑うかのように江戸で頻発する犬の辻斬り。その現場に、五城組のみが持つ根付けが落ちていたことを知り探索に当たる裏三家の望月彦四郎は、その背後に、再び藩主の座を巡る争いの影を察知する。だが姿なき敵の魔手は次々と彼らを襲い、ついに彦四郎は絶体絶命の窮地に立たされる…

 仙台藩直属の監察機関・五城組の中でも隠密の探索を行う「裏三家」の一つ、望月家の青年当主・彦四郎を主人公としたシリーズの第二弾の登場です。
 前作が実に面白かったので、次はまだかまだかと楽しみにしておりましたが、実に約一年八ヶ月ぶりの続編であります(あまり楽しみすぎて発売日の前日から本屋を十軒以上回った俺バカス)

 本作は、舞台は前作から二年後という設定ですが、内容的には完全に前作を踏まえたもの。登場人物も、味方も敵もそれ以外も、お馴染みの顔ぶれであります(相変わらず、彦四郎の兄貴分の片倉辰吾さんのキャラクターが面白すぎるのです)が、前作では登場しなかった裏三家の残る一つ、海野家の男も登場。彦四郎とも辰吾ともまた違う個性で、物語に新鮮さを加えています。

 それにしても、前作の感想でも同様のことを書きましたが、まだまだ実質第二作目だというのに、本作の安定感というのは大したもの。物語構成の完成度やキャラクターの豊かな個性、時代ものとしての必然性、そして文章力…いずれもあって当たり前の要素ではありますが、しかし存外ないがしろにしている作品も見受けられる中では、やはり評価すべき点でしょう(あまりにもかっちりし過ぎているかな、という感もなきにしもあらずですが…)

 そして何より本作ならではの魅力は、題材選びのユニークさでしょう。本作で描かれるのは、伊達騒動の二十数年後の伊達家の内外を巡る事件。
 戦国時代の伊達家や、伊達騒動そのものを描いた作品は山のようにある一方で、伊達騒動の後の伊達家を描いた作品は実に珍しいのではないかと感じます。このありそうでなかった伊達家物語というのは、なかなかのコロンブスの卵かと思います。
 もちろん御家騒動ものというのは、それこそ歌舞伎・浄瑠璃の昔から一ジャンルと言ってもよいほどに存在してはいるのですが、有名な御家騒動そのものでもなく、かといって全くのフィクションでもなく…その辺りのバランスが、何とも楽しく思えるのです。


 ただし、あえて言ってしまえば、本作だけで物語が完結していないのが、個人的には残念なところ。もちろんシリーズものの宿命として、これはアリではあるのですが、もう少しすっきりした形で続いてくれた方が嬉しかったかな…というのが正直な思いです(完全に前作読者前提なのもちょっと勿体ないかな)。
 もっとも、次の巻が早く出てくれれば、その辺りは問題のないお話。もう二年近く待たされるなどいうことはないように祈りつつ、次巻を楽しみにしている次第です。


「月下の剣客 五城組裏三家秘帖」(武田櫂太郎 二見時代小説文庫) Amazon
月下の剣客 五城組裏三家秘帖2 (二見時代小説文庫) (二見時代小説文庫 た 1-2)


関連記事
 「暗闇坂 五城組裏三家秘帖」 人の心の奥底に下る坂

|

« 「マドモアゼル・モーツァルト」 天才であること、自分であること | トップページ | 「東京事件」第2巻 抹殺されしものの逆襲 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/43569065

この記事へのトラックバック一覧です: 「月下の剣客 五城組裏三家秘帖」 ありそうでなかった伊達家秘帖:

« 「マドモアゼル・モーツァルト」 天才であること、自分であること | トップページ | 「東京事件」第2巻 抹殺されしものの逆襲 »