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2008.12.06

「虚剣」 柳生連也が進む道

 父と引き離されて妹・琴と共に暮らしていた柳生連也は、剣の才能を見込まれ、一人、父に呼び戻される。琴との再会を夢見て修行に励む連也だが、いつしか剣そのものに魅力を感じるようになる。しかし藩主の息子の指南役として江戸に出た連也を待っていたのは、残酷な別れと、剣鬼・十兵衛をはじめとする江戸柳生との対決だった。

 軽んじているわけでは決してないのですが、どうしてもチェックが甘くなってしまうのが、少女向け小説の中の時代もの。実は相当な点数が刊行されているのですが、発売時に気づかず、後になって臍を噛むこともしばしであります。
 本作もそんな作品の一つ。少年期から青年期の柳生連也を主人公とした、青春剣豪小説の佳品であります。

 本作で描かれる連也は、妾腹の子ゆえに父・兵庫助と引き離され、妹・琴と二人暮らしてきたという設定。それが剣才があると知られるや、琴と引き離され、再び父の元に戻されたことから心を閉ざし、ただ強くなるためだけに剣を磨く少年時代を送ることになります。
 そんな中でも、二人の兄をはじめとする周囲の暖かさに触れ、徐々に人間らしさを取り戻していく連也ですが、そんな彼に父が投げかけたのは、「剣は、欠けた人間でなければ極めることはかなわぬ」という言葉。その言葉の意味は、そしてその言葉が現実となるのか――物語は尾張柳生にとっては宿敵とも言える、江戸柳生との対決を経て、連也のある決断をもって幕を閉じることとなります。

 ここで本作が魅力的なのは、連也たち尾張柳生のみならず、敵役である江戸柳生もまた、一人一人が魅力的であり、かつ、連也の成長に大きな意味を持って登場している点でしょう。
 各人の設定自体は、突飛なものは少なく、比較的素直とすら言えるのですが、しかし随所にほどこされたひねりが面白く、どこかで見たようでいて、どこでも見たことのない、そんな柳生一族像が描かれています。

 特にその中でも私にとって強い印象を残したのは、終盤で登場する柳生友矩であります。本作の友矩は、家光との仲を父に裂かれた上に無惨な仕置きを受け、今は柳生の庄で静かに死を待つ身という設定。剣士としての才を捨て、己の愛に生きようとした友矩の姿は、剣を取るか、妹との道ならぬ恋を取るか、道に踏み迷う連也の姿と重なり、もう一人の連也として、大きな意味を持つ存在であり――出番自体は少ないものの、なかなかに味わい深いキャラクターでした。


 そして友矩との対決を経て、十兵衛との決戦に向かう連也が進んだ道、踏み込んだ境地――それが何であるかは、本書のタイトルがその一端を示しておりますが、――、本当にそれが正しい道なのか、ほかに道はなかったのか…確かに他に道はないと理解しながらも、連也の成長を見守ってきた身としては、そんな想いも胸をよぎります。
 作者のサイトによれば、当初本作は烈堂をもう一人の主人公としてシリーズ化を構想していたとのこと。あるいはその構想が現実のものとなっていればどのような結末となっていたのか…本作には大いに満足している一方で、その後の連也がどのような道を歩むのか、その行き着く果てを見たかった、という想いも強く感じた次第です。


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コメント

すごい前にコメント投稿させていただいた、たぬきです。
ご無沙汰しております。

この「虚剣」、思ったよりも硬派で楽しめましたよね。
少女小説の中では本当に異色だと思いましたが、時代小説として充分にOK!かなと。
あまりこの小説を取り上げる人がいなかったので、なんかうれしかったです。

投稿: たぬき | 2008.12.07 17:43

たぬきさんこんにちは。コメントありがとうございます。

本当に、十分に時代小説として読める硬派な作品で驚きました。
恥ずかしながら、本当に最近まで存在を知らなかったのですが…

これからも精進して色々な作品を取り扱っていきたいと思います。

投稿: 三田主水 | 2008.12.08 01:38

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