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2008.12.20

「絵巻水滸伝」 第七十五回「壺中天」後篇 恐るべき疑問

 まだまだ頑張る「絵巻水滸伝」感想であります。
 まだまだ頑張る官軍相手に籠城戦を行うこととなった梁山泊ですが、そこには恐るべき陥穽が。武をもっては大宋国に並びなき無敵梁山泊軍団ですが、しかし、いかな豪傑でも、いや豪傑だからこそ苦戦を免れぬその相手とは――

 童貫軍と十節度使との死闘の果てに、梁山泊への撤退を余儀なくされた梁山泊軍。とはいえ、梁山泊は物資は豊富な上に自然の要害、軍事力の点からも、あと数年は戦うことはできるはずですが…そこに待ち受けていたのは、聞探花(武侠小説ファン的には探花と聞くとやっぱりあの人が浮かぶんですが)こと知将・聞煥章の恐るべき罠。

 梁山泊に豪傑たちを押し込めておいて、無理に攻撃はせず、精神的に揺さぶりをかける――拷問の中で一番辛いのは、死刑を宣告しておいてそのまま放っておくことだと聞いたことがあるような気がしますが、そのような弱い心の持ち主は雑兵クラスのお話としても、しかしいつまでも腕を撫して待つだけというのは、いかにも辛いこと。
 しかも、彼ら豪傑は世に容れられぬ極めて自由な心を持った者たちか、心ならずも落草することとなった者たちばかり。そんな彼らが、一カ所に押し込められていれば、果たしてどうなることか。

 ここで「壺中天」という章題の意味がここに来てようやくわかります。衰亡に向かう大宋国において、平和と自由を謳歌できる数少ない楽園たる梁山泊は、過酷な現実の中に生まれた一つの別天地であり、壺中天と言えます。
 しかし、壺中天ありといえど、その壺の中に閉じこめられてしまったら、果たしてその天を楽しむことができるのか…

 さらに今回の展開は、一つの疑問を――水滸伝ファンにとって、心には浮かびながらも突き詰めるのが恐ろしかったある疑問を――浮かび上がらせます。梁山泊に集ったことは、豪傑たちにとって、果たして幸せだったのか…と。
 これはある意味、「水滸伝」という物語の構造を揺るがす危険な疑問ですが、これからの展開を考えれば、避けては通れぬものではあります。

 しかしここで驚かされるのは、その問と対峙するのが(おそらくは)神火将魏定国であることでしょう。失礼ながら、その印象的な渾名と裏腹に、原典では活躍の舞台が限られていたこの豪傑に、こんな形でスポットが当たるとは、一体誰が予想したでしょうか。
(今までにスポットが当たったのって、北方版の瓢箪矢と吉岡平の外伝くらいじゃ…)


 水滸伝ファンとしては実にもやもやしたところで次回に続くこととなった今回の更新分。新年には、気持ちのいい逆転劇をお願いしたいところですが…次回予告のテンションが非常に高いので楽しみです。


公式サイト
 キノトロープ/絵巻水滸伝


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