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2008.12.13

「かるわざ小蝶 紅無威おとめ組」 痛快、大人のライトノベル?

 綱紀粛正に燃える老中・松平定信の施策により、育ての親を殺された軽業師の少女・小蝶は、定信をつけ狙ううちに、超美形の青年・幻之介と出会う。定信が私した田沼一族の隠し金を強奪し、庶民に配ろうという幻之介の企てに加わった小蝶は、男装の剣士・桔梗と天才発明家の萩乃とともに計画を進めていくが、事態は思わぬ方向に…

 ユーモア時代伝奇小説とも言うべき、当代ワンアンドオンリーの世界を構築している米村圭伍先生の痛快活劇作であります。
 元々女性主人公が少なくない――というよりそちらの方が多い――米村作品ですが、本作に登場するのはいずれも個性豊かな三人のヒロイン――まだまだ幼いが鼻っ柱は一人前、無双の体術と手裏剣術で大暴れの小蝶。自ら編み出した紅無威夢想流の達人で凛とした風貌の桔梗。お色気過剰で奇想天外な発明を次々繰り出す萩乃…ベタといえばベタな顔ぶれではありますが、米村先生の脂の乗った筆致によって、実に生き生きと活躍する三人の姿を見ているだけで、無性に楽しい気分になってきます。

 お話の方も、何故か定信の下屋敷に収められた田沼一族の隠し金――説明に妙に説得力があるのがまた楽しい――というユニークなターゲットを巡って、誰が味方か誰が敵か、狐と狸の化かし合いがなかなかに面白い。
 ネタ的にも、ほとんど米村作品のレギュラーというべき御庭番さんも登場して可哀想なことになったり、実はあの作品につながっていたりと、作者のファンに対するサービスも十分。

 そしてクライマックス、どう考えてもいかがわし…いや怪しい幻之介にも、実は秘められた思惑があって――と、二転三転する状況に翻弄されるばかりだった小蝶たち三人の怒りが遂に爆発、「艶姿三人娘、われら紅無威おとめ組!」の決めセリフも勇ましく、大暴れする様はまさしく拍手喝采ものであります。

 本作の良い意味で漫画チック、良い意味で軽い味わいは、まさに「大人のライトノベル」といったところでしょうか。
 この言葉自体は私のオリジナルではありませんし、また時代小説を評するにこの言葉を用いることに顔を顰める方もおそらくいるのではないかとはと思いますが、これは私にとっては褒め言葉。個性豊かなキャラクターたちが活躍する波瀾万丈の物語、肩の凝らない楽しさに満ちた大衆文学の王道を行く娯楽作…本作のような作品――尤も、呑気なムードのわりにしっかり人も死ぬし、世間のドロドロした部分もきっちりと描かれる辺りはいかにも米村節ですが――にとって、この「大人のライトノベル」という言葉はピッタリだと思うのですが、いかがでしょうか。


 さて実は本作、物語的には誕生編。思わぬ後ろ盾を得て活動開始した紅無威おとめ組が、果たしていかなる活躍を見せてくれるのか――それはシリーズ第二弾「南総里見白珠伝」が既に刊行されていますが(これまた本作に輪をかけてすんごい内容であります)、事件やキャラクターのネタには事欠かない時代背景だけに、これからの内容にも大いに期待したいところです。楽しい「大人のライトノベル」の、これからの展開を楽しみにしている次第です。


 …しかし元女武芸者だった田沼意次の娘を妻にしている剣術家の冬山大次郎さんカワイソス


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コメント

こんばんは。
ああ、そうだ、これ読もうと思ってたんだ。
忘れてたの思い出しました。ありがとうございます。

ところで真田手毬唄はお読みになりましたか?

投稿: まさ影 | 2008.12.13 23:40

まさ影様:
実はまだだったりします…お恥ずかしい
しかし考えてみれば米村作品の紹介率がまだまだ低いですね、うちは。頑張らなくては!

投稿: 三田主水 | 2008.12.14 01:06

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