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2008.12.11

「無念半平太」(その一) 兵法・剣士・武士様々

 折角だから全話レビューすることにしました柴錬「剣鬼」シリーズ紹介。今回は新潮文庫の「無念半平太」に収められた全六作を、二日に分けて紹介したいと思います。

「塚原彦六」
 巻頭に収録されているのは、かの塚原卜伝の第三子ながらその性情を疎まれ、家を捨てて放浪の旅に出た塚原彦六の姿を通じて描かれる、戦国時代の剣の姿の物語。
 庶子として生まれ、常に父に疎まれてきた彦六は、家督を譲る際の試験で不合格となったのを機に家を飛び出し、塚原の姓を捨てての兵法修行。その行くところには常に血風吹きすさぶこととなりますが、しかしそんな彼が挑戦して勝てなかったのは、剣豪大名たる北畠具教。伊勢国司という名門の出でありながら、卜伝より奥義・一の太刀を伝えられたという具教に、彦六は生涯二度に渡って見えるのですが…
 本作の舞台となっている天正の頃は、兵法の勃興期とも呼べる時期。戦場往来で磨かれる――作中で描かれる、陣借りした彦六が戦場で強敵と見え、お互いボロボロになりながら死闘を続けるシーンが強く印象に残ります――その剣は、彦六の生き様そのままにひたすら荒々しく殺伐としたものでありますが、その中で、卜伝の剣はやはり兵法の精華というものであったと感じ入らされるのは、具教の存在感の大きさ。そしてその具教が最後に見せた一の太刀は、戦国の世の兵法というものの一つの在り方を示していると感じます。


「宮本無三四」
 続いて描かれるのは、宮本武蔵ならぬ宮本無三四の物語。武蔵が数々の決闘の果てに剣名を天下に轟かせた頃、無数に現れた武蔵もどき。その中で本作の主人公は、天下に兵法者たるは武蔵と我の二人のみ、三人目四人目はない、という気概で武蔵に挑むこととなります。
 元々無三四は、小太刀で知られる中条流・富田重政の愛弟子。貧しい出生ながらその技を見込まれ、前途洋々と思われた彼の運命を狂わせたのは、鵜戸神宮での武蔵との出会い。己の技に絶対の自信を持ちながらも武蔵に破れた彼は、己の足りぬものは非情の心と思い定め、無用な殺生を繰り返すまさに剣鬼と化すのですが…
 宮本武蔵になれなかった男、いわば武蔵のネガを主人公とする本作は、必然的に宮本武蔵という存在を描き出すこととなります。柴錬作品にもしばしば登場する武蔵は、言ってみれば剣鬼の最高峰とも言うべき存在。ラストでは、その武蔵と無三四の二度目にして最後の決闘が描かれるのですが…さて、この結末をどのように受け取るべきか。剣鬼という存在の空しさと、その往く道の険しさを改めて感じさせられたことです。


「侠客閑心」
 白髪白面の怪剣士・寺西閑心を狂言回しに、妖剣・薬研藤四郎を手にした者たちの悲運の様を描くのが本作。寺西閑心は、歌舞伎や講談等に登場する(何と広辞苑にも記載されている)侠客ですが、本作では柳生兵庫介の直弟子でありながら、寺の墓地の夜回りをして暮らす奇矯な人物として描かれるのが、いかにも柴錬先生らしいところであります。
 その閑心が巻き込まれるのは、湯屋での喧嘩に端を発する、血生臭い争いの数々。閑心は、その争いの中に、ある時は助太刀として、またある時は傍観者として登場するのですが…むしろ本作の主題は、閑心その人ではなく、その争いの中に巻き込まれ、あっけなく命を散らしていく武士たちの、皮肉に満ちた姿であると言えます。
 武士の一分、という言葉がありますが、太平の世にあって武士たちがその一分を示す機会というのは、まずなかったというのが現実であり、そしてその機会というのは、往々にして己の命を捨てることと同義。そんな機会に巡り会ってしまった武士たち――作中では凶相の刀・薬研藤四郎を手にした者たちがこれに当たるのですが、刀自体は別に何をするというでもなく、手にした者が本当に運が悪かった、としか思えないのが面白い――の姿が、本作では淡々と描かれていきます。
 現代の我々から見れば、馬鹿馬鹿しいとしか思えぬ理由で死んでいく武士たちの姿を、どう解釈すべきかは難しい問題かもしれませんが、そんな皮肉な武士の有り様を、武士ともそれ以外ともつかぬ存在である侠客閑心が目撃するという構造は、なかなかに考えさせられるものがあります。


 以下、明日に続きます。


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