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2009.01.28

「麗島夢譚」第1巻 大活劇、麗しの島!

 時は寛永十五年、オランダ商船を襲った松浦党の頭目・伊織は、船倉で虜囚となっていた紅毛人ミカ・アンジェロと宣教師姿の日本人シローを見つける。だがその直後、麗島のオランダ軍の攻撃を受けて伊織の船は壊滅、伊織はゼーランジャ城に捕らえられ「四郎」の行方を責め問われる。アンジェロに救われた伊織は、シローが島原の乱から生き延びた天草四郎と聞かされるが、オランダ軍が、宮本武蔵が伊織たちを追い詰める。

 安彦良和先生が「COMICリュウ」誌上で不定期連載中の時代コミック、「麗島夢譚」の第一巻が発売となりました。掲載開始から二年数ヶ月を経て、ようやく単行本一巻目というのは、またずいぶんと待たされたものですが、しかし内容の方は相変わらずの描き込みに時代ものファンには驚きの展開の連続で、待っただけのことはあったと感じます。

 タイトルに掲げられた麗島は、台湾の異称。初めて台湾を訪れたポルトガル人が、その美しさから「イラ フォルモサ(麗しの島)!」と叫んだことから付けられたことに由来する名前ですが、この物語の舞台となる寛永十五年、西暦1638年当時の麗島は、オランダとポルトガル、オランダと中国、オランダと日本が入り乱れて利権を求めて争っていた、ある意味アジアにおける大航海時代の縮図のような土地であります。
(ちなみに物語の舞台の一つ、ゼーランジャ城は、オランダがポルトガルを排する目的で麗島に築いた要塞であり、後に鄭成功がこれを奪取してオランダを麗島から駆逐することとなりますが、その辺りは新宮正春先生の名作「ゼーランジャ城の侍」をお勧めします)

 そんな麗島で本作の主人公・伊織が巻き込まれることとなったのは、かの天草四郎を巡る冒険。実は島原の乱で天草四郎は死んでいなかった、というのは伝奇時代ものにしばしば見られるシチュエーションですが、その四郎をゼーランジャ城に登場させるというのは本作ならではのアイディア。
 しかもそれだけでなく、海を越えてきた宮本武蔵が二天一流の豪剣を振るうわ、ミカ・アンジェロは実は○○○○の息子で×××××の配下だわと、伝奇ファンには何とも堪らないキャラクターが次々と登場、大活劇を繰り広げてくれるのが実に楽しいのです。

 もっとも、お話的にはまだまだ序章といったところで、面白いことは面白いのですが、伊織は結局、状況に引っ張られて走り回っただけといった印象。安彦漫画の特長ともいえる、骨太の人間描写や、巨大な政治・歴史のうねりといったものは、まだ本作からはほとんど感じられないのは、いささか残念であります。物語背景的に、後者はこれから否応なしにクローズアップされていくことと思いますが――

 これだけ豪華な顔見せをしておいて、あとはおあずけというのは、いかにも殺生な話。冒頭に述べたように、不定期連載の状況ではすぐに次とはいかないのでしょうが、少しでも早く続きを! というのが正直な気持ちであります。


 ちなみに――本作には、パイロット版ともいうべき作品が存在します。2002年のワールドカップ日韓共同開催の際に刊行されたアンソロジー「アディダス マンガフィーバー」に収録された「BATEREN 南蛮西遊記序章」がそれで、天草四郎が、宮本武蔵と幕府の忍者を供にローマに渡った先で巻き込まれた事件を描くこの作品は、題材的にも内容的にも、まさに「麗島夢譚」の先駆けともいうべきものでありました(ただし、伊織に当たるキャラクターはいないのですが)

 実に魅力的な題材だっただけに、本当に「序章」のみの掲載だったのを、当時はずいぶんと残念に思ったのですが、それが今になって、装いはいささか変わったものの再開できるとは、実に嬉しい話ではあります。
 本作もいずれはこの短編のように、ローマに乗り込むことになるのか、今から――いつになるかはわかりませんが――楽しみにしているところです。


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