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2009.01.04

「百鬼夜行絵巻の謎」 百鬼夜行の道筋を追って

 新刊リストでタイトルを見た時から気になっていた、小松和彦先生の「百鬼夜行絵巻の謎」を読みました。
 百鬼夜行絵巻といえば、妖怪好きにとってはお馴染みの、驚くほどのバラエティに富んだ妖怪たちが、実に躍動感をもった筆致で描かれた絵巻ものですが、その絵巻の成立史における新たなる発見が、本書の主題であります。

 一口に「百鬼夜行絵巻」といっても、実に様々なバリエーションが存在するもの。それは、優れた作品が、参考にされ模写されることにより流布されていくことを考えれば別に不思議ではありませんが、しかしそれには、そうした作品群のオリジナルが存在するはず。
 これまでの研究の中では、そのオリジナルを中心として想定されてきた絵巻成立史が、しかし、ある絵巻の発見から、完全に覆されていくその過程が、本書では丹念に描かれていきます。

 その絵巻とは、昨年の夏(本当につい先日!)に発見された「百鬼ノ図」と呼ばれる絵巻。
 様々な器物の怪や擬人化された動物など、ある意味百鬼夜行の定番的なイメージの妖怪たちが生き生きとしたタッチで描かれた後に、後半1/3に至って、妖怪たちを飲み込む巨大な黒雲の姿が描かれ、最後はその黒雲の中に、謎めいた魔物の影が描かれて終わるという、それ自体、非常に印象的な作品です。

 本書では、上に述べた百鬼夜行絵巻バリエーションのどれとも異なるこの「百鬼ノ図」を、国内外の百鬼夜行絵巻の伝本六十余と――すなわち、現時点で判明しているほぼ全ての絵巻バリエーションと――分類・比較することにより、その成立史におけるコペルニクス的転回を導き出すこととなります。
 一つの証拠を元に、推論と丹念な分析を経て、新しい解答を導き出すというのは、学問研究の当たり前のステップではありますが、本書ではそれを、豊富な図版を引用し、私のような妖怪が好きなだけの素人にもわかるように、そして素人考えの疑問も差し挟めないように、明確に示してくれるのが実に愉しく、興味深く感じられたことです。


 もちろん、本書に記された内容をもって、その成立史の謎の全てが解けたわけではありませんし、この先、その謎が全て解けるという保証もありません。
 しかし、まことに得体が知れない存在である百鬼夜行絵巻の成立し、すなわち百鬼夜行の辿ってきた道筋を考えるという試みが、これほどエキサイティングなものであると教えてくれた本書には、心から感謝したいと思います。そしてもちろん、この研究がさらに前進していくことを、心から祈る次第です。

 それにしても「百鬼ノ図」の最後に描かれた、角ある動物に騎乗した、巨大な角持つ者は何者なのか…アカデミックな話の後で恐縮ですが、これも伝奇者的には実に愉しい謎であります。


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コメント

去年の年末に川村湊の「牛頭天王と蘇民将来伝説」を読んだせいで、牛頭天王がマイブームになっています。
百鬼ノ図の角を持つ魔王も牛頭天王っぽいですね。牛頭天王は動物には乗りませんが、その原型の一つである大威徳明王は牛に乗ってますし。

投稿: 木村 | 2009.01.06 08:51

なるほど、牛頭天王というのは確かに説得力ありますね
考えてみれば牛頭天王というのも不思議な存在です

と、昨日の夜、新しい百鬼夜行絵巻が見つかったというニュースが!(小松先生のコメント付き)
なんというタイミングの良さでしょう

投稿: 三田主水 | 2009.01.07 00:41

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