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2009.02.26

「若さま侍捕物手帖」第2巻 キャラものとして、推理ものとして

 先月刊行開始されたランダムハウス講談社文庫の「若さま侍捕物手帖」の第二巻が発売されました。先に紹介いたしました徳間文庫の「人魚鬼」と合わせて長短二冊の若さまの活躍が楽しめるという、ファンにとっては誠にありがたいお話であります。

 この第二巻には、中編一、短編八の計九編が収録されていますが、通読して改めて気付かされるのは、推理ものとしては言うまでもなく、キャラクターものとしての本シリーズの楽しさ。

 これは存外触れられないことですが――当たり前の話であるからかもしれませんが――いわゆる捕物帖にとって、謎解き、情緒・人情に並んで、大きな要素は主人公と仲間たちのキャラクター性ではないかと私は感じています。
 主人公は単に謎を解き事件を解決するだけの存在ではなく、一個の個性的な人物として存在し――その個性が捕物帖の魅力のうち、大きな部分を占めていることは、捕物帖ファンであれば頷いて下さるのではないかと思います。
 まあ、これは捕物帖に限らず、連作シリーズものの共通項かもしれませんが…(そう考えると、比較的キャラクター性の薄い半七親分は、実はかなり異色の存在なのかもしれません)

 その点、若さまのキャラクターの強烈さは、言うまでもありません。
 普段は日がな一日盃片手に暮らしながら、事件を耳にすれば明察神のごとし――というのは探偵であればある意味当然のこと。それだけではなく、普段は侍らしからぬ伝法な口調で通しながら、ふとした拍子に生まれながらに高位にある者の鷹揚さを見せ、幕閣や大名と対等に言葉を交わし…酒の抜ける時がないのではという有り様ながら、武術体術に対しては驚くような冴えを見せ、それでいて滅多に刀は抜かず、人も傷つけず…
 まずはスーパーマンでありながら、しかし何とも言えぬ親しみと魅力をこちらに感じさせる――一切のバックグラウンドというものを見せないにもかかわらず――それが若さまという人物であります。

 本書に収録された作品においては、いずれもそんな若さまのキャラクターの魅力が出た作品ばかり。若さまを含めてほとんどトリオと言って良さそうな、御用聞きの遠州屋小吉と船宿の看板娘・おいとの三人の会話の楽しさは、また格別であります。


 しかし、こんなことばかり言っていては、逆に本シリーズがキャラクターの魅力に寄りかかっただけと誤解されるかもしれませんが、もちろんそれが事実ではないのも、言うまでもない話です。
 本書に収録された作品で言えば、唯一の中編「まぼろし力弥」など、その分量に相応しく入り組んだ謎が提示される一作。美男役者・力弥が、同じ日に別々の相手と心中を行い、しかも深手を負ったはずの力弥自身は、いずこかへ姿をくらまして――という奇怪な事件を描いた本作は、一種の人間消失ものではありますが、そこに二つの心中事件が絡み、さらに後にはまた…という、一ひねりも二ひねりもある物語構造が実に興趣に富んでおり、推理ものとしての若さまを堪能させてくれます。

 もう一編、推理ものという観点から特に楽しめるのが、巻末に収録された「別れ言葉」。宴席で、同席者に律儀に別れの挨拶を告げてから毒を呷った男の死の真相を追う本作は、トリック自体は珍しいものではないものの、その謎と真犯人を暴き出す若さまの手法がなかなかに面白く、ちょっと洒落た味わいの作品かと思います。


 ちなみに――上記の「まぼろし力弥」に登場する印象的な登場人物の、その後の姿らしき人物が「人魚鬼」に登場しているのも面白いところ。
 「まぼろし力弥」の内容を考えれば、果たしてどうかしらんと思わないでもありませんが、同一人物だとしたらなかなか粋なゲスト出演ですし、さらにその二作が同じ時期に復刊されるというのも、面白い偶然ではありませんか。


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