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2009.02.10

「北斗の銃弾」 殺伐さと希有壮大さと

 江戸を騒がせた末に捕らえられ刑死したはずの鼠小僧が、江戸に再び現れた。かつて鼠小僧退治に手を貸した浪人・松井音四郎は一連の事件に不審を抱き、そして鼠小僧は復讐に燃え胡椒入れ拳銃を片手に音四郎に迫る。しかし、二人を待ち受けていたのは、幕閣上層まで巻き込んだ巨大な陰謀だった。

 宮本昌孝先生の作品といえば、つい先日続編「海王」が刊行された「剣豪将軍義輝」のように、「爽快」という言葉がぴったりくる印象が強いのですが、本作は、その意味ではいささか異色作と言えるかもしれません。登場人物の多くは、裏の世界の住人であって暗い影を背負い、また、展開される物語の内容も、幕府の権力を巡る陰湿な暗闘なのですから…
 悪役のチョイス等を見る限り、本作は柴田錬三郎作品へのオマージュと感じられるのですが、物語のムードもまた、柴錬作品的と言えるのかもしれません。

 しかしながら、目まぐるしく展開する物語に散りばめられた仕掛け・アイディアは、まぎれもなく宮本先生のオリジナル。
 死んだはずの鼠小僧が、胡椒入れ拳銃(連発拳銃)を片手に冷酷な復讐劇を展開するという冒頭からまず驚かされますが、その後も、快男児・音四郎や怪人・阿修羅外道(何とまた凄まじいネーミング…)など個性的な面々が暴れ回り、鼠小僧誕生の謎から幕府を私せんとする巨魁の陰謀、果ては露西亜の南進政策まで飛び出してきて、そこにアクションがたっぷりとまぶされているのだから堪りません。

 ことに、終盤まで読み進めて初めてわかる、本作のタイトルの意味には、もはや口をあんぐりとするほかなく…何となく所与のものとして受け止めていたあのアイテムが、鼠小僧の登場から芋蔓式に繋がっていく伝奇的アイディアの一つの帰結として物語中に浮かび上がる様には、こういうことか! と、大いに唸らされました。


 しかしながら、ある程度限られた紙幅であまりにスケールの大きな物語を展開したためか、構成や描写にかなり粗い部分があるのもまた事実。特に後半は、「実は○○は××だったのだ」的説明で物語が進んでしまう部分が散見され、宮本作品にしてはチト舌たらずかな…と感じてしまったのも正直な話であります。

 もちろん、伝奇ファンにとっては、その程度は小さな瑕疵。希有壮大なホラ話――というにはいささか殺伐たる部分もありますが、理屈抜きで壮大な空想に遊ぶことのできる快作であることは間違いありません。


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