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2009.02.12

「人魚鬼」 幻の若さま伝奇復活!

 ある晩、突然の闇討ちにあった青年剣士・小森新太郎。そこで腕前を見込まれた彼は、丹波青山家の江川了巴なる老人から、高禄で仕官を持ちかけられる。その任は、青山家のうつぼ姫を、人魚島まで護衛すること――人の欲が入り乱れる中、若さまも登場、人魚島の謎に挑む。

 今年はどうやら「若さま侍捕物手帖」シリーズファンには至福の年のようです。一月からの短編集の連続刊行に続き、この二月には幻の長編であった本作「人魚鬼」が刊行の運びとなったのですから。

 以前に述べたように今なお全貌の見えない本シリーズですが、その理由の一つが、なかなか再版の機会に恵まれないこと。本作も、実に五十年以上前に刊行されたきりで、古書店でもなかなか見つからない一冊でした。
 それが今回、こうして徳間文庫から刊行されたのはまさに欣快の至り。それは単に本作が若さまシリーズの幻の長編だというだけでなく、実にユニークな伝奇時代小説であるからであります。

 ここで本作の内容に目を向ければ、実質の主人公は、ごく普通の――人並みはずれた剣の腕を持つとはいえ――浪人である新太郎青年。その彼が、ある時突然に怪老人に誘われ、絶世の美姫を護って謎の人魚島に向かうことになります。
 八百比丘尼をはじめとする不老不死と人魚の伝説――その源であるという人魚島に眠る不老不死の秘法を巡り、新太郎は様々な勢力の思惑が入り乱れる争いのただ中に放り出されるのです。

 と、ここまで見ればわかる通り、本作は伝奇時代小説の王道――善男善女がある日突然奇怪な事件に巻き込まれ、秘密と陰謀に満ちた冒険のただ中を行くことになる――そのもの。
 今では「古き良き」という言葉を冠したくなるような、そんな物語であります。

 と、そんな本作における若さまのスタンスは、本人が自分で言っているとおり「いわば弥次馬というやつ」。
 密かに進行する事件の存在を知った若さま、暗闘の旅に出た主要登場人物たちを追って、自分もぶらりと普段の姿で旅に出て、要所要所に顔を出して物語をかき回していきます。

 これでは一歩間違えると若さまはおまけのようですが、しかしどんな陰惨な事件も深刻な事態も、そこに顔を出すと、何だか印象が和らぐのが若さまの人徳。
 本作も、色欲・金銭欲・権勢欲などなど様々な欲が絡む物語ですが、そこに「ハッハッハ!」といつもの明朗な笑い声と共に現れる若さまのお陰で、ずいぶんと暗いイメージは薄れて、ユニークなエンターテイメントとして成立しているのです。


 伝奇時代ものとしての王道を行きつつ、そこに若さまという存在を投入することで、物語に一ひねり加える――そして同時に、伝奇要素にも負けない、若さまの強烈なキャラクター性を描く――という、そんな職人芸的な楽しさに溢れた本作。

 冷静に見ると、中盤のロードノベル展開がチト長かったり、ラストに明かされる真実が身も蓋もなかったりと突っ込みどころはそれなりにあります。
 しかしそれもさほど気にならないのは、これはファンゆえの盲目さか――いやいや、若さまの人徳というものでしょう。

 今は、本作に止まることなく、幻の若さま作品の刊行が続くことを心から願っている次第です。


「縄田一男監修・捕物帳傑作選 人魚鬼」(城昌幸 徳間文庫) Amazon
人魚鬼―若さま侍捕物手帖 (徳間文庫)


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