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2009.02.24

「鳥辺野にて」 日常と異界が触れ合うところに

 加門七海先生のホラー短編集「鳥辺野にて」は、「異形コレクション」に発表された作品を中心としたホラー短編集であります。収録作品のほとんどが時代ホラー(という言葉はあまり響きが好きになれないのだけれど、どんな言葉を使えばよいのかしらん)ということもあり、今回ここに取り上げる次第です。

 本書に収録された作品は、掌編四編を含めて、全部で十二編。書き下ろし一編を除く収録作は、テーマアンソロジーである「異形コレクション」のほか、様々な媒体に掲載された作品であり、一口にホラー、時代ホラーと申し上げても、その内容や趣向は、実に様々。
 加門時代小説読者としてはちょっとニヤリな人物を不思議なユーモアと共に描いた冒頭の「左」に始まり、死の空気濃密な平安時代の鳥辺野を舞台とした表題作「鳥辺野にて」、岡本綺堂を思わせるスタイルで語られる絵画怪談「墨円」、年頃の少女たちの無邪気な辻占が生む怪異を描いた書き下ろし「菊屋橋」等々、そのバラエティの豊かさに驚かされます。


 しかし、これらの作品のほとんどに共通して――そして本書以外の他の加門作品にも共通して――私が加門作品に魅力を感じる部分が、存在します。
 それは、現実と怪異とが、日常と異界とが、触れ合う直前の感触とでも言いましょうか――怪異が現実に現れるその直前の、静かな日常の中に異界の空気がさっと流れ込んでくる、その瞬間の味わいが、私はたまらなく好きなのです。

 例えば「鳥辺野にて」での、二人の盗賊が問答を続ける中、夜の闇が近づく鳥辺野の、まさに鬼哭啾々たる有り様。例えば、「赤い木馬」で主人公が迷い込む夜の浅草の、美しくも凄涼たる見世物小屋のたたずまい。例えば「左右衛門の夜」で、非道の限りを尽くした主人公を包み込む、廃屋の異常なまでの沈黙…

 怪異そのものもさることながら、その怪異の前触れであり、怪異を包み込む空気感の恐ろしさ、そして蠱惑的とも言える美しさ…日常と怪異が、二重写しとなったように見えるその一瞬の味わいこそが、私にとっては加門作品の最大の魅力であります。


 加門先生は、いわゆる「見える」方であるというのは、よく知られた話。加門先生の霊感そのものには、私は正直なところさほど興味はないのですが、本書を読んでいると、「見える」というのは、こうしたことなのかもしれない…などと感じてしまったところです。


「鳥辺野にて」(加門七海 光文社文庫) Amazon
鳥辺野にて (光文社文庫)

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