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2009.03.13

「八雲百怪」第2巻 失われゆくものへの想い

 「八雲百怪」の第2巻が先日発売されました。これまで待たされた分が堰を切ったように…というのはいささか大袈裟ではありますが、二ヶ月連続刊行というのはやはりありがたいお話。この巻には、「コミックチャージ」誌掲載分のエピソードが掲載されています。

 この第2巻に収録されているのはの二つのエピソード。
 ある晩、背負うた子供が「自分を捨てたのはこんな晩だったな」と口にしたことから前世の罪の意識に悩まされる八雲が、異常に子宝に恵まれる村で起きた人体発火事件に巻き込まれる「こんな晩」。
 森鴎外の「舞姫」のモデルとなった女性・エリーゼが、若き日の姿で現れ、玉手箱で男たちの若さを吸い取っていく「儀来婆」。

 いずれも、あらすじにしてみると何がなんだか…ではありますが、しかし、一見ほとんど三題噺のような取り合わせを、伝奇的アイディアの面白さとキャラクター造形の巧みさ(八雲・三郎・八一そしてキクリの四人組はやりとりは、すでにほとんど完成した面白さがあります)、そして何よりも、近現代に対する明確な問題意識で、見事に料理してみせる大塚伝奇の味わいは本作でも健在であります。


 さて、本書に収められたエピソードは、どちらも実に面白いのですが、個人的に特に印象に残ったのは、「儀来婆」の方でした。

 このエピソードで描かれているのは、他の三話とはいささか異なる趣向の物語――確かに「門」は登場するものの、それを開けたモノ、そこから現れるモノは、他のエピソードのような日本の古ぶるしき世界に連なるものではほとんどなく、その意味では、それまでとは異なるスタイルの物語であります。

 その意味では、一見異色作ではあるのですが――しかし、このエピソードと他のエピソードには、やはり共通するものがあります。
…それは「失われゆくものへの想い」です。
 少々物語の核心に踏み込むことになりますが、このエピソードで描かれる事件の引き金となったのは、鴎外の、己の過去に対する想いの深さ。すでに失われ、取り戻すことのできない過去…そうであるけれども、いやそれだからこそ一層それを求める想いが強くなる、そんなモノであります。

 思えば他の三話で描かれたのも、引き金となったのは、そうした想いでありました。そこから出てくるモノはいささか異なれど、しかしそれを開けたモノは、同じ種類の想い…ということなのでしょう。

 そしてまた、鴎外にその想いを抱かせるきっかけとなったのが――それが表向きのものであるか、本質的なものであるかは別として――近代国家の国民である自分、という意識であることを思えば、このエピソードもまた、近代国家へと変貌しつつある日本の姿を切り出して見せたものと言えるのでしょう。


 「生きていく上でどうしても面差しが必要なのだ」という鴎外の言葉は、この上ないエゴではありますが、しかし我々それぞれにとって、大なり小なりその思いはあるもの。そしてそれを生涯拾い集めていたのが、八雲なのでしょう。
 その八雲がこれから出会うものは何か…それを最後まで見届けることができるよう、願っているところです。


「八雲百怪」第2巻(森美夏&大塚英志 角川書店) Amazon
八雲百怪 (2)


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