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2009.03.11

「神出鬼没! 戦国忍者伝」 忍者を通じて描いた歴史

 冷静に考えると、ほとんど毎月時代小説アンソロジーを刊行しているPHP研究所は、今最も短編時代小説に理解のある出版社なのかも知れません。
 今月刊行された「神出鬼没! 戦国忍者伝」も、そんなアンソロジーの一つ。タイトル通り忍者もののアンソロジーではありますが、その内容は、いかにも編者の細谷正充氏らしい、実に興味深いチョイスの作品集であります。

 本書に収録された作品は、全部で八編。その内容は、以下に示すように、一作を除き、いずれも後世に名を残す名忍者を主役に据えた作品であります。

「猿飛佐助の死」(五味康祐)…猿飛佐助
「決死の伊賀越え――忍者頭目服部半蔵」(滝口康彦)…服部半蔵正成
「最後の忍者――天正伊賀の乱」(神坂次郎)
「叛(はん)」(綱淵謙錠)…果心居士
「女忍小袖始末」(光瀬龍)…望月千代女
「関ヶ原忍び風」(徳永真一郎)…山岡道阿弥
「百々地三太夫」(柴田錬三郎)…百々地三太夫
「半蔵門外の変」(戸部新十郎)…服部半蔵正就(二代目半蔵)


 いずれも錚々たる顔ぶれ、まさに戦国忍者オールスターといったところですが、しかし、それだけで終わらないのが本書の趣向であります。

 実は本書に収録された作品の多くは、よそではほとんどお目にかかれないレアもの揃い。
 かなりメジャーな「猿飛佐助の死」と「百々地三太夫」を除けば、他のアンソロジーへの収録はおろか、雑誌初出以来初めて本に収められたのでは…という作品が並んでおります。

 この辺り、如何にも凡手を嫌う編者らしいチョイスだなあと思わずニンマリするとともに、滅多に出会うことの出来ない作品を、こういう形で発掘してくれることに、ありがたい気持ちで一杯であります。

 もちろん、本書においては単に珍しいというだけで作品が選ばれたわけではありません。
 いずれの作品も、忍者ものとして面白いのは当然のこととして、そこに止まらず、作者が忍者を通じて描こうとしたものの存在――例えば歴史解釈、例えば人間観察といったもの――をしっかりと感じさせてくれるのです。
 単に忍者を描くのみならず、忍者を通じて歴史を、人間を描く。本書に収められたのは、そんな時代小説として優れた作品、時代小説の醍醐味が溢れている作品ばかりであります。

 ちなみに私が一番気に入ったのは、巻末の「半蔵門外の変」。決して凡愚ではないのに、事ある毎に忍者失格の烙印を押される二代目半蔵の姿には、単に彼一人だけでなく、いつの世にも存在するある種の人間像を突きつけられた気分で、何とも複雑な気分にさせられたことです(そして戸部先生らしからぬ…いや、先生らしい結末のブラックな味わいにドキリと)。


 単に忍者ファンのみならず、時代小説ファンであればきっと楽しめる、新しい発見のある一冊であります。


「神出鬼没! 戦国忍者伝」(柴田錬三郎ほか PHP文庫) Amazon
神出鬼没! 戦国忍者伝 (PHP文庫)

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