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2009.03.10

「ぬっへっほふ」 未来に待っていたもの

 歴代足利将軍の死には、いずれも隠された事実があった。歴代将軍の前にどこからともなく現れる妖怪ぬっへっほふ――その「おわりをまて」という囁きを聞かされた直後に、歴代将軍は頓死していたのだ。ぬっへっほふの正体は、そしてその囁きの意味は…

 私にとって「異形コレクション」の隠れた名物は、各巻の特異なテーマを、いずれも室町伝奇もので見事に打ち返してみせる朝松健先生の作品であります。
 本作は「異形コレクション」の「未来妖怪」に収録された作品。「未来妖怪」というテーマ自体、何とも曖昧模糊として妖怪じみたものですが、「未来」という、室町時代…すなわち「過去」とは正反対にあるように見える概念を生かして、驚くべし、本作は室町伝奇にして見事に「未来妖怪」を扱った作品となっております。

 足利将軍列伝――さらに言えば室町通史として、最も奇怪な作品の一つであろう本作は、初代将軍たる尊氏の章に「マイナス15」と付されたのに続き、徐々にゼロに向かって章題(?)がカウントダウンされていきます。
 足利将軍の座に就いた以外、共通点などほとんどない歴代将軍を共通して襲う妖怪、というだけでも不気味でありますが、更に謎めいているのは、その妖怪「ぬっへっほふ」の囁く「おわりをまて」という言葉。

 その言葉の真の意味は、終盤に近づくにつれて「あれか!」と気付く方はいらっしゃると思いますし、その結末については「田中啓文?」と思った方も多いのではないかと思いますが、しかしその落し噺的結末の脱力感には、もう一つ別の脱力感が含まれているように私には感じられます。

 それは人間の血脈の無常に対する脱力感とでも言いましょうか――
 足利将軍家の辿ってきた歴史――それは同時に、彼らが築き、まがりなりにも治めてきた室町という時代でもあります――の行き着くところ、すなわち「未来」に待っていたのはこのような「もの」であったのか、彼らの生はこのような「もの」を生み出すためであったのかと、人の生の意味、人が代を重ねる生の意味を、考えさせられたことです。


 そう考ると、結末で描かれたある事実を「歴史は繰り返す」などという言葉とともに受け止めてしまうことは、あまりにも恐ろしいことに感じられます。
 本作の一番の恐怖はまさにこの点にあるというのは、私の考えすぎでしょうか。未来に待っていた妖怪、その正体は…願わくばその囁きは聞きたくない、聞かせたくないものです。


「ぬっへっほふ」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 未来妖怪」所収) Amazon
未来妖怪―異形コレクション (光文社文庫)

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