「表具屋夫婦事件帖」 ままならぬ想いを乗り越えて
「ビッグコミック1」誌に掲載されてきた、高瀬理恵先生の「表具屋夫婦事件帖」がようやく単行本化されました。
腕はいいが無愛想な表具師・斎之介と、元はその主筋で今は愛妻の千香の夫婦が出会う数々の「事件」を描いた連作集であります。
元々、斎之介と千香の二人は、同じ高瀬先生の「公家侍秘録」に登場したキャラクター。
公家・高丘家の妾腹の娘だった千香が、家の困窮を救うため女郎に身を落とし、それを、高丘家に仕えていた公家侍にして古筆守である斎之介が救ったエピソードで初登場したこのカップルは、その後も何度か顔を出していますが、ついにスピンオフして主役となったわけです。
(元々「公家侍秘録」自体が、「首斬り門人帳」のスピンオフ的存在であるので、スピンオフのスピンオフと言えるかもしれません)
そんな本作で描かれるのは、京の町を舞台にした五つの物語ですが、それは、どれも天下国家の動きなどとは無縁ながら、しかしその中心にある人々にとっては重く大きな「事件」ばかり。
その解決のために、主人公夫婦が奔走するというのが本作の趣向であります。
京を舞台とした事件帖――特に、京ならではの文化等の事物を題材とした――という意味では、「公家侍秘録」と同様に見えますが、しかし本作ならではの特色は、いずれの物語も、男と女の情愛を中心に据えたものであることでしょう。
身分制度など、独自の社会のしきたりというものは、江戸時代ならではのものでありますが、しかし、ままならぬ想いに苦しむ男女というのは時代を問わず普遍のもの。
本作は、自分たち自身もそんな「事件」を経験してきた二人ならではの物語であります。
二人の生活は、甘い甘いものではありますが、しかしそれは苦い過去を手を携えてくぐり抜けて末のもの。
だからこそ二人の行動には、単なるお節介に止まらぬ説得力があるのでしょう。
伝奇とは全く無関係の作品ではありますが、時にはこういう作品も良いものだと、心から思います。
「表具屋夫婦事件帖」(高瀬理恵 小学館ビッグコミックス) Amazon
| 固定リンク

コメント