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2009.03.16

「日本剣豪列伝」 剣の精神、剣の独自性

 今では書店で剣豪・剣術家の概説本をしばしば目にしますが、その現代における嚆矢は、中里介山の「日本武術神妙記」と、直木三十五の本書「日本剣豪列伝」ではないでしょうか。
 そのタイトル通り、数々の剣豪・剣術家の逸話を列伝形式で集めた本書は、しかし、筆者独自の視点が感じられて、古びるどころか今なお得るところが多いように思います。

 本書で取り上げられているのは、上泉信綱、伊藤一刀斎、柳生石舟斎と宗矩、宮本武蔵、辻月丹、平山子竜、斎藤弥九郎、千葉周作、山岡鉄舟等々…いずれも剣豪ファンにはお馴染みの顔ぶれではありますが、しかし本書が彼ら剣術家たちの生涯を語る上で特に力点を置いているのは、その心法、求道の精神であります。

 言い換えれば、本書で取り上げられている剣術家の選択は、単に剣の強さや逸話の多さというだけではなく、精神性の有無という点が、大きく働いていると言えます。

 剣術・武術における精神性を重視することには、功罪双方あるかとは思いますが、しかし――時代的な状況はあるとはいえ――人を傷つけるための技の修練から出発して、己を高める精神の修養に辿り着くというのは、世界中で絶無とは言いませんが、日本の剣術の一つの特色であることは間違いないでしょう。
(もっとも、本書における伊藤一刀斎擁護などはその点を強調しすぎた弊害とも思えますが…)


 なお、私の手元にあるのは河出文庫版ですが、こちらには筆者の論考「剣法の起源」「剣法の発達」が併録されています。
 こちらも題名の通りの内容ではありますが、「日本剣豪列伝」が、剣豪個々人の逸話から、日本の剣術の独自性を描き出していったのに対し、こちらは剣術剣法の誕生と発達を、より俯瞰的な視点から分析することにより独自性を検討してみせたという、いわば縦糸と横糸のような関係にあります。

 私は以前より、日本の剣技が「術」に始まり「法」を経て「道」に至る過程について非常に興味を持っていたのですが、本書はそんな私の疑問に対する、回答の一つを示してくれたようにも思えます。


 現在いずれの版も絶版となっているのは残念ですが――剣豪・剣術ファンであれば、ぜひ一度手に取っていただきたい一冊でありましょう。いずれ青空文庫に入るのではないかとは思いますが――


「日本剣豪列伝」(直木三十五 大東出版社ほか) Amazon

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