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2009.03.27

「鬼ヶ辻にあやかしあり」 美しき妖魔姫の愛でるもの

 昼なお暗い鬼ヶ辻にある猫又神社。普段近づく者すらないこの神社にやって来た少女・おたみは、不思議な面売りの青年・銀次から、神社に住まう白蜜姫に会う方法を教わる。放火の濡れ衣を着せられ、火あぶりを待つ運命の兄を救うため、必死の想いですがるおたみの前に現れた白蜜姫とは…

 児童文学というものは、時代伝奇、時代ファンタジーを愛好する者にとっては避けて通れない、決して侮るべからざるものと常々思っておりますが、本作もなかなかユニークな、時代ダークファンタジーとも言うべき作品であります。

 シリーズ第一作ということもあってか、本作の構成は至ってシンプル。
 無実の罪の兄を救うため自分にすがってきた少女の願いに応えて、鬼ヶ辻は猫又神社に棲まう美しき妖魔・白蜜姫が、真犯人たちに罰を与えるというのがその内容です。

 これが罰を下すのが人間であれば、色々な計略を働かせて…ということになるのでしょうが、何せ白蜜姫は、自身のあまりに強大な妖力をセーブするため、その力の半分を大地に封じたというほどの大妖(そのために鬼ヶ辻一帯が魔所に変じたという設定も実に楽しい)。
 単なる人間の悪党風情、労せずして叩き潰すことができるわけで、その辺りのカタルシスというものは、さしてありません。

 しかしながら、本作が実に魅力的、いや蠱惑的ですらあるのは、白蜜姫が人間に味方し、悪人を懲らすその理由にあります。
(以降、ネタバレとなりますのでご注意)

 白蜜姫がおたみの願いを聞き入れ、悪人を懲らしたその理由――それは、少女の涙に応えるためでも、この世の悪を討つためでもなく、ただ、悪人の魂を手に入れるため。
 そう、この少女とも見紛う妖魔の姫が何より好むのは、人間の邪悪な魂。悪に染まれば染まるほど、妖しく美しく輝くというその魂を集め、愛でるのが、姫の楽しみであり、悦びなのであります。人の願いを叶えるのは、あくまでもその魂を手に入れるための手段に過ぎないのです(尤も、か弱いながらも必死に生きる人間もお好みのようですが…)

 この、ひどく残酷で美しく、人間と近しい所に居るようでいて、決して交わりそうにない姫の存在感は、泉鏡花が好んで描いた妖女のそれに、近いものがあると感じますが、そんな女性に、児童文学で出会えるとは…
 いやはや、まったくもって油断できません。


 児童文学としては、ちょいと(どころでなく?)黒い味わいですが、しかし、人間の友達だったり、あるいは猛獣のように人間に害をなす存在であったりする妖怪ばかりでなく、こうした人間と似て非なる妖怪を描いた作品も面白いものでしょう。
 似て非なるものを通してこそ、見えてくる人間の姿もきっとあるはずですから――もちろんそれが、明日の夢見を良くするものとは限りませんが、それもまた一興…かな?


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