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2009.03.18

「恋の闇 六代目小太郎」 止むに止まれぬ想いを抱えて

 吉原で、死後数ヶ月の女郎の死体が発見された。しかしその女郎は、その日まで変わらぬ姿で暮らしていた…あらゆる女性に変じる七方化の葛葉が江戸に現れたのだ。葛葉の跳梁は続き、ついに六代目小太郎・風間伊織の幼なじみで小野家の娘・百合にまでその魔手が迫る…

 時代伝奇小説界の希望の星の一つ、柳蒼二郎先生の「六代目小太郎」が帰ってきました。
 市井に潜んで江戸の平和を守る風間伊織たち風魔一党の次なる敵は、あらゆる女性に変じ、相手に血の止まらぬ傷を与える魔の爪を持つ妖女忍・七方化の葛葉。風魔の甚右衛門、今は吉原の総名主の庄司甚右衛門への積年の想いを晴らさんと江戸に出現したこの魔女に、風魔一党を挙げて挑むこととなります。

 が、敵は変身とも転生とも表すべき忍法でもって、あらゆる年齢・容姿の女性に変じる難敵。次々と風魔を、そして無辜の民を毒牙にかける狂気の忍びに、果たして如何に立ち向かうか…と、今回も忍者ものの興趣に満ちた快作となっています。
 しかし、本シリーズが他の忍者ものと一線を画するのは、敵忍者のキャラクター像が、単なる悪役という言葉では片づけられない陰影をもって描かれていることであります。

 本作の葛葉もまた、その憎むべき凶行の裏側に、止むに止まれぬ想いを抱えた人物。超人的な術技を持ちながらも、それ故に人として生きられなかった彼女がたった一つ抱えていた人間的な感情――それが何であるかは本作のタイトルが示していますが、伊織と風魔一党が挑むのは、単に葛葉のみならず、人間誰しもが一度は直面するこの難敵なのです。

 その苦闘の詳細は、これはぜひ実際にご覧いただきたいのですが、素晴らしいのはそんな伊織に向けられた、母――すなわち五代目小太郎の妻――の言葉。
 人が人を想うとはどういうことか、いかにあるべきか…本作には様々な形で、男女の間の想いが描かれますが、それらを全て包み込む暖かさ、深さがここにはあります。


 忍法合戦の面白さもさることながら、ドラマ的な奥行きでも実に面白い本作。
 第一作目を読んだとき少々ひっかかった登場人物の多さも、良い具合にこなれてきたと言いましょうか、伊織以下、各人のキャラが――本作ではチョイ役の柳生十兵衛、小野次郎右衛門たちも含めて――実に良く立っていて、全く気にならなくなりました。
(前作では謎だった、先代小太郎と家康の約定の内容も冒頭で描かれるのですが、これがまた伝奇的ひねりが効いていて実に良いのです)

 キャラ良し設定良しドラマ良しと、まさに時代エンターテイメントとして死角なし、の印象で、これはいよいよもって見逃せない作品となったと感じます。


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