「忍歌」第1巻 人の心に忍びの技
上杉と武田の激しい戦いの中、次から次へと危険な任務に派遣される武田家の素破・歌丸。愛する妻と、これから生まれる子供のために必死に任務を果たす歌丸だが、その身を思いも寄らぬ過酷な運命が襲う。情に動かされる忍び・歌丸の運命や如何に。
すっかり時代アクション漫画家として定着した印象のあるかわのいちろう先生ですが、その最新刊が、戦国忍者アクション「忍歌」の第一巻。「週刊漫画ゴラク」誌でシリーズ連載中の作品なのですが、これがまた実に面白い作品で、今更ながら驚かされました。
基本的には主人公・歌丸が、次々と危険な任務に挑む様を、忍術の心得を記した忍歌と絡めて描く短編連作エピソードなのですが、歌丸がスーパーヒーローではなく、また歴史を動かすような力や地位を求める者ではないのが、本作に単なる忍者ものから一線を画する面白さを与えていると言えます。
あくまでも心身ともに常人の範囲内で、人より少しばかり(もちろん、かなり幅の広い「少しばかり」ですが)優れた忍びの腕と機転でもって、死地を潜り抜ける様は――主人公像的な意味で忍者版「ダイ・ハード」という印象すらありますが――実に人間的で共感させられると共に、クライマックスでの大逆転が更に爽快に感じられるのです。
(特に、ラストエピソードでの服部半蔵正成(!)戦での決め技が実に印象的!)
そんな歌丸の戦いが変化を見せるのは、この第一巻の後半。何者かに里を襲撃され、身重の妻を奪われた歌丸は、主家を捨て、フリーランスの忍びとなって、少ない手がかりを元に妻を追い求めることになります。
忍びたるもの、非情を以て旨とするのがあくまでも基本。その意味からすると、歌丸は単に主家を捨てたという以上に、忍びであることを捨てていることになりますが、しかしそれでも頼りになるのは習い覚えた忍びの技。
人の心に忍びの技という、魅力的な存在となった――本人には嬉しくも何ともないかと思いますが――歌丸が、どこまで人としての己を貫くことができるか…戦いの行方を見守りたいと思います。
ちなみに、歌丸自身は庶民的ながら、ほとんど全てのエピソードに歴史上の有名人が登場する本作。その中でも、一般にはどうしようもないボンボンの印象の強い今川氏真が、本作ならではのキャラクター像で描かれているのが印象に残ります。
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