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2009.04.23

「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」 唯一最良のブックガイド

 いま時代小説界で無視できない――どころか、むしろ積極的にリードしている感すらある文庫書き下ろし時代小説。毎月、驚くほどの点数が発売されている文庫書き下ろし時代小説の、初めてのガイドブックが刊行されました。

 内容は、ベストシリーズランキング、殿堂入り作家紹介、江戸時代解説、ブックガイドと、かなり鉄板な内容ですが、今まで網羅的に扱われたことがほとんどなかった文庫書き下ろし時代小説の世界を、ほぼ一望の下に見渡すことが実に有難い話。
 私個人の趣味からは外れている作品も多い故、全て把握していたわけではないのですが、それでも文庫書き下ろし時代小説がこれほど刊行されているとは…と、その壮観ぶりには素直に驚かされました。

 本書の中心となっているのは、以前このブログでも紹介した「架空戦国記を読む」の筆者である榎本秋氏。「架空戦国記を読む」の時も感じましたが(そして氏の活動分野の一つであるライトノベル界においてもそうですが)、広く浸透していながらも、なかなか概観されてこなかった世界で、このようなジャンルガイドをいち早く刊行してみせる氏の感覚には感心します。

 さて、個人的に嬉しかったのは、あまりご自身の言葉を目にすることが少ない――あとがきがついている作品が少ないのも文庫書き下ろし時代小説の一つの特徴と思います――作者の方々に対するアンケート記事です。
 実に三十名近い作者の、ペンネームの由来・デビューの経緯・好きな作家等が掲載されており、なかなか作品を読んでいるだけではわからない作者像がぐっと身近に感じられると共に、作者の作品に対する姿勢も窺われて、これはこれで作品を読む時のガイドになると感じます。

 また、ベストシリーズランキングの一位の作者である上田秀人先生へは、ロングインタビューが行われているのが何とも嬉しいところ。作品には後書きが付されることの多い先生ではありますが、特にその作品の完成度の高さと裏腹に――と言うのは失礼かも知れませんが――注目されることが少なかったように感じられるだけに、これだけきっちりと取り上げていただけるのは、本当にありがたいことです。

 と、かなり満足できる内容の一冊なのですが、もちろん不満点もあります。何よりも、ベストシリーズランキングと、ブックガイド、さらに殿堂入り作家の関係がわかりにくく、また選考基準も今ひとつ明確ではない点。
 ベストシリーズの方は2008年に刊行され、かつ四巻までしか刊行されていない新しいシリーズ、一方でブックガイドでは五巻以上刊行されているシリーズと分けてはあるのですが、何故この基準なのか…というのは今ひとつすっきりしません。
 もっとも、本書に掲載されている全国チェーン書店での実売ランキングが、目にした途端(失礼な表現かもしれませんが)爆笑するしかない内容だけに、これはこれでやむを得ないことかと思いますが…

 その他、本書の対象となっているのが、基本的にシリーズもののみである点や、作品紹介のみに終わって、文庫書き下ろし時代小説の傾向や功罪の分析まで欲しかったところですが、これはちと贅沢の言い過ぎかもしれません。


 何はともあれ、一見近づきやすいようでいて、実は途方もなく広大な――そしてそれは、名作が数多く埋もれかねないことを意味します――文庫書き下ろし時代小説の世界において、本書が間違いなく現時点で唯一最良のブックガイドであることは確かなことであります。
 このジャンルに興味がある方は、目を通して損はない、いや一度は目を通しておくべき本でしょう。


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