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2009.04.19

「緋衣」 霧の中に潜むもの

 師に依頼され、仏画を携えての旅路の途中、兵庫山中で道に迷った一休と同行者たち。その彼らに襲いかかったのは、血を吸う奇怪な霧の妖たちだった。何とか囲みを破り、山中の一軒家に逃れた一休たちを待っていたものは…

 吸血鬼テーマの異形コレクション「伯爵の血族 紅ノ章」に収録された、お馴染み朝松健の室町伝奇は、これまたお馴染み一休宗純が奇怪な吸血鬼と対決する「緋衣」。毎回変化球の多い異形コレクションにしては比較的ストレートな題材ですが、今回も朝松先生は投じられた題材をジャストミートして、味わい深い作品世界を作り上げています。

 本作で一休の前に現れるのは、吸血鬼、すなわち血を吸う妖であっても、一ひねり加えられた奇怪な存在。溜息のような吐息とともに現れ、犠牲者を取り込んでは体中のあらゆる穴から血を啜る、霧の吸血鬼であります。

 かの伯爵に代表される西洋の吸血鬼の能力の中に、霧に変じるものがあるのはよく知られた通りですが、本作に登場するのは、血を吸う霧そのもの。
 正直なところ、短編ということもあってか、本作は比較的ストレートな展開ではあるのですが、しかしこの独自の吸血鬼像が何ともユニークかつ恐ろしく――特にその存在を示すのに、霧という視覚的なものだけでなく、「溜息」という聴覚を刺激する要素を設定しているのが何とも不気味な効果を挙げています――あの室町のゴーストハンター・一休ですら逃げるしか打つ手がない怪物の恐ろしさが、臨場感をもって迫るのです。

 さて、追い詰められた一休が、一転反撃に転じる様も、これもかなりストレートなものであって、朝松作品にはむしろ珍しさすら感じさせられるのですが、しかしそれが凡手に見えないのが作者一流の技。
 一休流の吸血鬼退治・悪霊祓いの様は、不思議なリズム感と、美しさすら感じさせられる荘厳さに貫かれており――ここで「溜息」が全く逆の意味をもって浮かび上がってくるのがまたうまい――結末で示される妖たちの正体と、彼らが何故血を吸うのかという絵解きの面白さと相まって、読後、何とも満ち足りた気分にさせてくれます。


 闇に潜むものの恐ろしさと哀しさ、そしてそれを力強く照らし出す一休の心身の輝き――朝松一休の魅力の一端は本作においても健在であります。


「緋衣」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション 伯爵の血族 紅ノ章」所収) Amazon
伯爵の血族 紅ノ章 異形コレクション 37

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