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2009.04.15

「城盗り藤吉郎」 いい人藤吉郎、奔走す

 美濃を次なる標的に定めた織田信長は、調略工作を開始する。足軽組頭・木下藤吉郎は卑賤の身から身を起こすため、率先して危険な任務に挑むが、彼を疎んじる者が、美濃に、そして織田家の中にもいた。綱渡りの果てに、ついに決戦の場に向かった藤吉郎を、そしてねねを待つ運命は…

 岡田秀文先生による太閤記異聞とも言うべき一作。豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃、信長の美濃攻略を背景に、何とか立身してみせようという藤吉郎の苦闘の日々が描かれます。

 岡田先生の作品に登場する秀吉と言えば、「本能寺六夜物語」や「太閤暗殺」のように、怪物とすら言える強烈に黒いパーソナリティーの持ち主という印象がありますが、本作における藤吉郎は、実に「いい人」。
 辛酸を舐め尽くした過去を背負って前向きに生きる、努力と辛抱と善意の人として描かれており、最近では他の作者の作品においても悪役として描かれることの多い秀吉にしては珍しい(?)扱いです。

 その点からすると、いい人が一生懸命頑張って成功するという、あまりに真っ当すぎる――特に岡田先生にしては――作品ではあるのですが、しかしそれでもサスペンスフルな展開で読者の気を逸らさないのは、さすがと言うべきでしょうか。

 ことに印象的なのは、本作において敵役として立ち塞がる美濃方の馬廻衆・長井忠左衛門の強烈なキャラクターでしょう。
 血と暴力、下克上と破倫…戦国時代の負の部分が凝ったかのような忠左衛門は、比較的おとなしめの作風の本作においては、暴風のような存在。
 美濃国内で調略に当たる藤吉郎を密殺するという任務を受けながらも、藤吉郎の妻・ねねが、かつて自分が愛した――そして無惨に殺害した――女性と瓜二つと知るや、己の任務を忘れて一方的に執着する…

 とにかく気持ち悪いキャラクターですが、その存在が、藤吉郎サイドとねねサイド、本作の二重のクライマックスを盛り上げていることは間違いありません。

 正直なところ、上で述べたように、作者の名前から期待する内容にとは少々隔たりのある作品ではあるのですが、しかし読んでいる間は決して退屈しない、良くできた作品であります。


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城盗り藤吉郎 (時代小説文庫)


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