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2009.05.26

「風の陰陽師 3 うろつき鬼」 その力でも得られぬものは

 野望を晴明に阻まれた藤原黒主は、かつて恨みを呑んで死んだ親王とその母の霊を焚きつけて怨霊朝廷を樹立せんと企み、都に奇怪な鬼を放つ。一方、信太の森では謎の美女・玉藻の前率いる魔修羅教なる一団が、信太狐たちを苦しめていた。愛する咲耶子と母・葛の葉を救うため奔走する晴明だが。

 第二巻を紹介してからだいぶ間が空いてしまいましたが、少年時代の安倍晴明を描く「風の陰陽師」シリーズ第三巻「うろつき鬼」であります。
 第二巻のラストで、咲耶子は入内、葛の葉は再婚と、大事な女性二人を同時に失った晴明を、さらに過酷な運命が襲うことになります。

 前作の後、信濃の国守に従って晴明が都を離れた一年の間に、次なる奸計を巡らしていた怪陰陽師・藤原黒主。
 光仁天皇を呪詛した疑いで都を追われ、日を同じくして亡くなった井上内親王と他戸親王の母子の怨霊を甦らせ、怨霊朝廷を打ち立てて皇位を簒奪しようという途方もない陰謀を企む黒主は、骨から死者を再生し、鬼として使役する邪法を以て、都の闇を騒がせます。そしてその魔手は、再び咲耶子へ――

 それと時を同じくして葛の葉ら信太狐が暮らし、晴明にとっても第二の故郷である信太の森を狙うのは、前作で顔見せした妖魔・玉藻の前。あの大妖とは同名異人のようですが(本来であれば日本で暴れるのはもう少し後ですから)、強力な妖魔であることに変わりはなく、魔修羅教なる教団を組織して、人間を、そして信太狐を欲望に狂わせ、葛の葉らを追い詰めていきます。

 こうしてみると、都サイドと信太の森サイド、二つの場所で並行して展開される敵の計画に対して晴明が立ち向かうのは、物語のパターン的に前の巻とほとんど同じ。結末もまた、かなり近い内容ではあるのですが、それをあまり感じさせず、物語に没頭させてくれるのは、作者の力量というものでしょう。

 そして何よりも、結末は似ているといえ、晴明を襲う運命は、この巻の方が遙かに過酷であり、容赦ないものとなっています。
 単純に能力の強さ、術の腕前という点で見れば、晴明は作中でほとんど最強の域にあります(その辺りには不満がなくもありませんがそれは別の話)。しかし、その晴明の力をもってしても得られないもの、失われていくものがあるということは、晴明の力が際だつが故に、より重く、厳しく感じられるのです。

 …考えてみれば、本シリーズは第一巻から、陰陽師の力、超自然的な力も決して万能ではないということ、そして大事なのはそれを扱う者の心であることを描いてきました。
 本作は、その一つの現れと言えるのかもしれません。


 さて本シリーズも続く第四巻で完結。なおも暗躍を続ける黒主の次なる魔手は、平将門に向けられる様子ですが、さて――
 愛する者を完全に失ってしまった晴明が、自分の力とどの様に向き合い、どのように生きていくのか。その答えが出るときが、シリーズの終わる時なのでしょう。

 そして色々な意味で一線を越えようとしている妖狐・赤眉が楽し…いや心配です。

「風の陰陽師 3 うろつき鬼」(三田村信行 ポプラ社) Amazon
風の陰陽師〈3〉うろつき鬼


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