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2009.05.16

「やわら侍・竜巻誠十郎 夏至闇の邪剣」 これぞ心の柔術

 竜巻誠十郎に課せられた次なる目安箱改め方の任務は、道灌山の幸徳寺門主に関する不穏な噂の調査だった。奇しくも近くの料理屋の女房が狐憑きとなったという事件を追っていた誠十郎は、この二つの間に何らかの関係があるのではと考えるのだが…

 無記名で一度は却下された目安箱への訴えの真偽を探る影の役目、「目安箱改め方」を拝命した柔術遣いの青年とした「やわら侍・竜巻誠十郎」の第二作目が発売されました。
 目安箱改め方の誕生と、誠十郎の最初の活躍を描いた第一作は、ミステリとしての楽しさと、人間ドラマとしての豊かな味わいを兼ね備えた、いかにも翔田先生らしい作品でしたが、その魅力は、今回も変わることなく貫かれています。

 今回の事件は、江戸道灌山の幸徳寺門主が、妖しげな加持祈祷を行い、いかがわしい女たちを連れ込み、果ては本尊を売り払ったという怪しからぬ噂の真偽を巡るもの。
 これが普通の寺院にまつわる事件であれば、わざわざ目安箱改め方が動く事件ではありませんが、幸徳寺の門主は浄土真宗を束ねる重鎮であり、七代将軍の生母にして吉宗擁立にも尽力した月光院の帰依も厚い人物。しかも、数日後には幕閣も列席する法会が開かれるという状況では、噂を看過できぬ…というわけで、誠十郎の捜査が始まることとなります。

 その一方で誠十郎が巻き込まれたのは、寺近くの料理屋の女房が狐憑きとなって夢遊病者の如く夜な夜な歩き回り、近隣では怪火怪音が相次ぐという事件。生来のお人好しぶりと、奇しき因縁から事件の真実を探ろうとする誠十郎ですが、やがてこれがで思わぬ形で幸徳寺の一件と結びつくことに…

 というように、目安箱改め方の任務――すなわち政治の世界での陰謀が、一見無関係に見える町家で起きた怪事と結びつき、その二つを誠十郎が解き明かすというスタイル自体は、本作も同様ですが、何と言っても胸を打つのは、狐憑き事件の背後に存在する哀しい人の想いと、それに対する誠十郎の見事な解決ぶりでしょう。
 詳細はもちろん伏せますが、事件の中にある人々を救うために誠十郎がみせる粋な計らいは、まさに「心の柔術」とも言うべきものではないか――と感じた次第です。

 もちろん、誠十郎が揮うのは、心の柔術だけではありません。刀を手にした相手に対して、無手で立ち向かう誠十郎の想身流柔術の冴えは今回も健在。かつてない強敵を前に、誠十郎が新たな境地に開眼するという剣豪小説的楽しさもあり、まさに至れり尽くせりの内容であります。


 そしてラストでは、第一作から見え隠れしている真の敵がいよいよ前面に現れるであろうことが仄めかされるのですが――その敵との対決は、おそらくは誠十郎自身を襲った悲劇の真実にも繋がるであろうもの。
 悲嘆に暮れる人々を救う誠十郎の心の柔術が、彼自身をも救うことができるのか…それはこれからのお楽しみです。


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