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2009.05.29

「ぼんくら武士道」 ほんもの武士道

 融通の利かない仕事ぶりから変わり者と見られ、「ぼんくら」と揶揄されている村雨藩の勘定吟味方下役・本田蔵四郎は、何者かに襲われた国家老を救ったことから、藩が乗っ取りの危機に瀕していることを知る。藩を救うため、密命を帯びて江戸に向かう蔵四郎だが…

 以前にも何度か触れましたが、今では数少なくなってしまった時代伝奇小説の書き手である鳴海丈先生は、同時に、山手樹一郎先生に代表される明朗時代小説をこよなく愛し、これまでも「ものぐさ右近」シリーズなど、そのリスペクトの念を露わにした作品を発表しています。
 個人的には、バイオレンス色の濃厚な時代伝奇と、人情とユーモア溢れる明朗ものと、ある意味両極端の作品を同時に愛する鳴海先生の人物自体にまず興味があるのですが、それはさておき、先日発表された「ぼんくら侍」も、この明朗時代小説の系譜に属する作品であります。

 お家乗っ取りの陰謀に巻き込まれた主人公が、主家を救うために密命を帯びて旅に出る、というスタイル自体、時代小説の一つの典型でありますが、本作はそこに、茫洋としているようで滅法腕の立つ、優しく心正しき青年侍をヒーローに、鉄火肌だが根は純な美女道中師(ツンデレというのは最近のおたく文化の産物ではなく、由緒正しき日本の文化なのだとつくづく感じます)をヒロインにという人物配置。

 そして行く先々で危難に見舞われるのを、武術の腕と、持ち前の明朗快活な性格で切り抜け、やがてはお家そのものまで…というのは、まさに明朗時代小説のお手本的内容であります。

 もっとも紙幅の都合か、次々と降りかかる危難も、比較的あっさりとくぐり抜けてしまうため、物語の自体はしごくあっさり目の味付け。意地悪く言えば、山手作品のダイジェスト的な作品となっているのは、これは残念なところではあります。

 しかしそれでも、肩の力を抜いて軽い気持ちで読めるのはよいものです。そしてそれよりも何よりも、生真面目で不器用で、しかしどこまでも真っ直ぐで心優しく、愛する者を何よりも大事にし、そして命を賭けるべき時には迷わず己を投げ出す(物語の終盤である人物を向こうに回してのはったりは痛快の一言!)蔵四郎のキャラクターは、やはり魅力的に感じられます。
 こうあって欲しい、こうありたいと思わされる蔵四郎の生き方は、ぼんくらどころではない、本物の武士道なのであります。


「ぼんくら武士道」(鳴海丈 PHP文庫) Amazon

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コメント

 チャンバラ面でのライバルキャラの体格が、箪笥に手足系統だったので、右近さんが道を踏み外していたら、こんな感じになっていたのだろうかと、ふと思ってしまいましたよ。
 ではでは

投稿: ちゅるふ | 2009.06.02 21:44

なるほど、言われてみればそうですね。
しかし、あのキャラのラストはちょっと可哀想でしたね…

投稿: 三田主水 | 2009.06.03 00:51

 ラストバトルで生死不明にしておいて、「ぼんくら」の続編で主人公が窮地に陥ったときに、颯爽と登場し見方なんぞした上で、さりげなく去っていったりする・・・
 そんな、修理さんが見たかった、なんて時もありました。

投稿: ちゅるふ | 2009.06.23 21:30

なんというニッチな要望…(汗)
そのためにはまず続編を出していただかなくては!

投稿: 三田主水 | 2009.06.24 00:57

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