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2009.05.12

「つくもがみ貸します」 人と妖、男と女の間に

 深川でお紅と清次の姉弟が営む損料屋・出雲屋には、年月を経て付喪神になった品物が集まっていた。出雲屋に持ち込まれる事件を、貸し出した先で付喪神たちが仕入れてきた噂話を手がかりに解決していく清次だが、姉弟自身にも解決すべき問題が…

 「しゃばけ」の畠中恵先生が、損料屋(今で言えば生活用品のレンタル屋でしょうか)・出雲屋を舞台に描くミステリ風味の連作短編集であります。
 収録されているのは全五編、「利休鼠」「裏葉柳」「秘色」「似せ紫」「蘇芳」と、いずれも日本の色を示すタイトルがふされており、それぞれにまつわる事件が展開していくという趣向です。

 さて「しゃばけ」シリーズのもう一つの主役が、江戸で暮らす妖怪たちであったのに対し、本作のもう一つの主役は、出雲屋に集まった付喪神たち。
 …と書くと、口さがない向きは二番煎じなどと言うかもしれませんが、もちろんそんなことはなく(そもそも妖怪の次は付喪神というのは、鳥山石燕的には正しい…というのはこじつけか)、本作には本作独自の味わいが、しっかりと備わっています。

 というのもこの付喪神たち、仲間同士のお喋りは大好きなくせに、人間とは口を利こうとしない。声を聞くことはできても、清次やお紅が声をかけると途端にだんまり…基本的に若だんなのみとはいえ、人間に友好的な連中が多かった「しゃばけ」の妖怪たちとは大違いですが、この何とももどかしいコミュニケーション不全が、ミステリ色の強い本作においては良いスパイスであり、特徴となっています。


 しかし、もどかしいコミュニケーション不全は、何も人間と付喪神の間のみのものではありません。
 本作のもう一つの特徴は、描かれる事件がいずれも男女の間にまつわるものであること。望まぬ縁談に結ばれぬ仲、別れ話のもつれに片想い…どの事件も、同じ人間同士、男と女のコミュニケーションのもつれが生み出したものなのです。

 そしてそんな関係は、主人公である清次とお紅にも当てはまります。お紅を「姉さん」と呼ぶ清次ですが、しかし二人に血の繋がりはなく、しかも清次はお紅を密かに想っているというドキドキ設定。しかし当のお紅は、かつて自分の傍にいた、「蘇芳」の茶碗に因縁を持つ青年の面影が胸を去らず…と何とももどかしい限り。

 この「蘇芳」にまつわる物語が、本作を貫く一つの柱として、最後まで描かれていくのですが――さて、最後に待つものは、ちょっぴり意外で、しかし暖かい結末。
 男と女の間のコミニュケーションは、いつの時代も複雑怪奇ではありますが、しかし必ずしも悪い結果を生むわけでもないのよね、と何とも微笑ましい気持ちにさせられました。


 ちなみに本作、第二話の冒頭に「妖退治で高名な広徳寺」とあるのですが…まあそういうことなのでしょう。


「つくもがみ貸します」(畠中恵 角川書店) Amazon
つくもがみ貸します

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